朝日新聞の「悩みのるつぼ」から

 朝日新聞の身の上相談「悩みのるつぼ」に「気が利かないと言われ続け」ている22歳の男性からの相談が載っている(7月20日)。

 今春大学を卒業し、社会人になった22歳の男性です。(中略)/昔から気が利かないと親に言われ続けています。誰も口に出しては言いませんが、周囲も恐らく私を気の利かない人間だと思っています。
 母が忙しいとさりげなく手伝う妹と違い、私は言われるまで動きません。家の中だけでなく、外でもこのようなことがよくあります。急いで私が動こうとしても、すでにやることがなくかえって邪魔にしかなりません。人が動く前に自分が動くと言うことができず、その結果「言われたからやる」という風になってしまいます。
 もちろん私も行動が遅れた時は反省し、次から気をつけようと思うのです。しかしそう思ってもすぐに忘れてしまい、また同じことを繰り返してしまいます。
 多分私には他人に対する配慮の心と、周囲に対する気配り、気付いた時にすぐに実行する行動力が足りない。自分しかみえていない人間のうえ、言われないとわからないのだと思います。どうすればこんな自分本位な姿勢を正せるでしょうか。(後略)

 回答者は経済学者の金子勝幸田露伴の『五重塔』の主人公、大工の十兵衛のエピソードを引いて、「たとえ気が利かなくても、努力次第で見事に仕事をやりとげ、尊敬を集めることができます」などと書いている。「当たり前のことですが、人は誰でも長所と短所、強みと弱みの両方を持っています。短所を直そう直そうと考えると、いつしかマイナス思考に陥ってしまいます。他方、短所を打ち消すほどの長所を持てば、やがて短所は短所でなくなります」と続け、最後に「身につけられる長所は努力次第です。血の滲むような努力は人間も鍛えてくれます」と締めている。そんなに簡単に「血の滲むような努力」ができるはずがないのに。
 さて、金子の回答は実は問題から大きくずれている。相談者は典型的なアスペルガー症候群なのだ。そんなに簡単に治ることはない。
 私も患者の一人なので偉そうなことは言えないが、岡田尊司アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)が役に立つだろう。以前、アスペルガー症候群については、2度ほど紹介したことがある。


アスペルガー症候群、再び(2010年1月20日
アスペルガー症候群(2010年1月15日)



アスペルガー症候群 (幻冬舎新書 お 6-2)

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