ヤン・ヨンヒ『兄 かぞくのくに』を読む

 ヤン・ヨンヒ『兄 かぞくのくに』(小学館文庫)を読む。これは先に見た映画『かぞくのくに』の監督ヤン・ヨンヒが書いたドキュメンタリーだ。映画では北朝鮮へ「帰国」したのは主人公リエの一人の兄ということになっていたが、実際には3人の兄たちが「北」へ「帰って」いた。映画で扱われていた脳の腫瘍で手術のために一時的に日本に戻ったのは、3番目の兄だった。
 次兄と3番目の兄は、それぞれ高校生と中学生のときに自分たちで希望して北朝鮮へ渡っていた。長兄は弟たちが行ったあとで、金日成の誕生日のプレゼントとして指名されて北へ渡った。このとき長兄は日本の朝鮮大学校の学生だった。希望して行ったわけではなかった。繊細な神経を持っていた長兄は、北朝鮮躁鬱病にかかり、その後心臓発作で亡くなった。
 ヤン・ヨンヒは兄たちがいたので、何度も北朝鮮へ行っている。兄たちの家庭を通して、北朝鮮の不条理な世界を知ることになる。それはほとんど想像を絶するデタラメな世界だ。
 ヤン・ヨンヒ北朝鮮を描いた映画を作ることにより、朝鮮総連から北を訪問することを禁じられてしまう。次兄や甥たちや姪に会いに行くことはもうできない。
 日本と北朝鮮に別れた家族を描くことは、ほとんどメロドラマのような濃密な感情世界を描くことになる。同じテーマを描いた映画とエッセイを比べることによって、それぞれの得意とする分野が分かったのも収穫だった。映画も本作もとても良かった。ただ、ここまで書いてしまって、北朝鮮に残る兄たち家族が迫害を受けることはないのだろうか。


『かぞくのくに』を見る(2013年6月16日)


兄 かぞくのくに (小学館文庫)

兄 かぞくのくに (小学館文庫)