石毛直道『世界の食べもの』を読む

 石毛直道『世界の食べもの』(講談社学術文庫)を読む。石毛は京都大学系の文化人類学者。世界の食卓文化論や料理の歴史、リビア砂漠探険記、また石毛直道自選著作集全12巻などがある。
 本書は、週刊朝日百科『世界の食べもの』の中から著者が執筆した分を編集したものを「I 諸民族の食事」とし、それに「II 日本の食事」「III 食べ物から見た世界」を併せている。主体となる「I 諸民族の食事」には、朝鮮半島、中国、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシアモルッカ諸島オセアニアマグレブの食生活が紹介されている。「週刊朝日百科」は全ページカラー印刷で、料理のカラー写真が満載されていたらしい。本書ではカラー図版をすべて省いている。石毛たちは執筆にあたってカラー写真が掲載されていることを前提に文章を書いている。おそらく、そのために文章は簡略だ。教科書の記述のような傾向は、しかしそのせいではないだろう。日本生態学会の会長で千葉大学学長だった沼田真を思い出す。沼田も高い学識と、それと矛盾する下手な文章が印象的だった。
 世界の食べ物に関する文献としては、私たちはすでに中尾佐助を知っている。『料理の起源』(NHKブックス)、『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)、『栽培植物の世界』(中央公論社)、どれも大変素晴らしかった。どうしても中尾佐助に比べてしまうので、本書に高い評価を与えることができなかった。


料理の起源 (NHKブックス 173)

料理の起源 (NHKブックス 173)

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

栽培植物の世界 (自然選書)

栽培植物の世界 (自然選書)