占い師に教えられたこと

 山田宏一『映画とは何か』(草思社)は山田が23人の映画人にインタビューしたものだ。最初に山田宏一の大好きなフランソワ・トリュフォーへのインタビューがあり、2番目がフランスの女優ジャンヌ・モローとなっている。ジャンヌ・モローは女優でありながら映画監督としても成功している。その監督第2作にあたる『思春期』についてがこの対談のテーマだ。
 映画のなかに描かれている田舎の風景はモローが全く知らなかった土地だった。

−−なぜそこをロケ地に選んだのですか。
モロー  まったくの偶然でした。6カ月間もわたしたちはロケ地をさがしましたが、この土地だけは3月か4月まで雪があることで知られていたので、対象にしていなかったのです。わたしたちは南仏の近くまで行ったり、西のほうへ行ったりしましたが、ぴったりの風景がなく、わたしはすっかり絶望的になっていました。そんなときに、たまたま、女占い師に見てもらったら、Laguiole(ラギオール)という綴りを書いてくれたのです。彼女は、土地の人たちと同じように「ラヨール」と発音しました。信じられませんでした。しかし、とにかく助監督の女性をすぐラギオールに行かせました。ロデスまでは飛行機がありますが、それからは、車を借りて運転して行くしかない場所です。翌日の晩、彼女から電話がかかってきました。雪ももうすっかりないとのこと。シナリオに書かれているすべての条件がそろっている土地であること。こうしてそこがロケ地に決まったのです。すばらしいでしょ? しかし、プロデューサーは最初、霊媒の言うことなど信用して無駄な金を使わせるとは何事だ、気狂い沙汰だと怒っていましたね。(笑)

 以前、取引先の人が予知能力を持っていることを紹介した。彼の勤める会社の社長が職場で執務中急死したとき、その日の朝からそれが分かっていたという。背中がぼうっと光っていたと。
予知能力(2007年9月7日)
 雑誌『FOCUS』が創刊された頃、連載で藤原新也が東京の盛り場の易者をインタビューして回ったことがあった。もう30年ほど前だが。そのとき藤原が、新橋の駅前の易者にすごい人がいたと書いていたのを今でも憶えている。
 ドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミンも生活のために筆跡鑑定で稼いでいた。いや筆跡鑑定と予知能力と占いは違うかもしれないが、一見非合理なものにも真実が隠されているように思う。少なくともジャンヌ・モローは女占い師によって映画のロケ地を見つけることができたのだから。