『物質と彫刻−−近代のアポリアと形見なるもの』を見る


 東京芸大大学美術館陳列館で『物質と彫刻−−近代のアポリアと形見なるもの』を見る(4月21日まで)。隔年に開催してきた芸大彫刻科主催の展覧会シリーズの8回目だという。カタログの「ごあいさつ」から、

 今回は「物質」をクローズアップさせ、彫刻における物質の持つ意味と関係を再考し、人間と物質を現代に問うものであります。これは、現代の仮想空間での事象に興味を持つ傾向や、彫刻を広義に捉える流れに対して、これからの彫刻が現実性(リアリティ)を持ち得るにはどのようなことが考えられるのかを、11名の作家の物質へのアプローチを通して思考することが目的です。

 その11名とは、角田優、佐々木速人、名倉達了、名和晃平、袴田京太朗、林武史、原口典之、深井隆、Mrs. Yuki、宮原崇広、森靖だ。
 圧倒されたのは原口典之の作品「物性II」だ。鉄で作られた四角い箱にオイルを張っている。幅4.9m、奥行き3.7m、高さ18cm、オイルは鏡のように天井や窓や照明を写しこんでいる。その物質としての量塊、液体としてのオイルの存在感が緊張感を与えている。みごとな造形だ。




 ついで、名倉達了の作品「Line-hand frame-」が目を引く。壁に四角い枠のような大理石が29個並んで取り付けられている。それらは24個と5個がセットになっているように、間に隙間が作られている。さらに壁に鉄棒と見まごう細長い御影石が立て掛けられている。その数が31本。壁の大理石に立て掛けられているのが1本。床にも1本が、御影石の石塊を枕にして置かれている。壁に設置された大理石もどこか危うい感じがするし、立て掛けられた御影石の棒も不安定な印象は否めない。原口の作品同様に見る者に緊張感を強いている。



 変わっているのはMrs. Yukiの作品だ。ニシキヘビの仲間のボールパイソンをケースの中に3匹入れている。交配によって体の模様の変化を楽しむ文化があるらしい。

 林武史は「緑の間」という作品を展示している。花崗岩と陶(織部)、日干しレンガ、壁土で作られている。1辺が3m余の正方形の大きさだ。農閑期の水田か畑を連想した。

 森靖の作品は木彫で「The propaganda-Man with the lump」と題されている。楠で高さ2mを超える大きさだ。

 このほか、自然の放射線を捉える装置を作った角田優や、意外にもキャンバスに絵具の平面作品を展示した名和晃平、大理石に硬化剤を入れない液体状のシリコンを組み合わせた宮原崇広、アクリルパイプの不思議な立体の佐々木速人、野球のバットを7つに切断し、それらをアクリル板と組み合わせたオブジェなどを展示した袴田京太朗、抽象的な木彫の深井隆など、現在の彫刻の多様性が垣間見られた展示だった。
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『物質と彫刻−−近代のアポリアと形見なるもの』
2013年4月2日(火)−4月21日(日)
10:00−17:00(19日は19:00まで)月曜休館
無料
東京芸術大学大学美術館陳列館