小沢昭一『芸人の肖像』を読む

 小沢昭一『芸人の肖像』(ちくま新書)を読む。小沢さんは昨年12月10日に亡くなった。83歳だった。本書は小沢の生前に企画が決定し、編集作業が進んでいたという。小沢は俳優座養成所を出た新劇俳優でありながら、生家が写真館だったこともあって、カメラにも親しんでいた。さらに芸能者に深い関心を抱き、日本全国を歩いて彼らの姿を撮影していった。その結果、今ではほとんど消え去った過去の芸能者の姿を写真に残すことができた。小沢昭一の残した大きな仕事の一つだと思う。
 写真の被写体となったのは、萬歳、神楽、説教節、落語、講釈、寄席の色物、モノ売り、流し、相撲、幇間、踊り子、ストリッパー、見世物小屋、猿回し等々。小沢だから撮影できたと思われるものも多い。相手に信頼されなかったら、ストリッパーが素顔を撮影させるだろうか。
 トルコ嬢(現在のソープ嬢)を撮った写真に、店長からの注意書きが写っている。それによれば、

御客様に対して多額のサービス料を請求したり、又受取らぬ事。再度、御来店下さる様接客して下さい。

 ホステスさんえ
仕事上の事で他人を抽象したり、影口を言ったりする事なく同志は仲よく手を取り合って民主主義の平和と平等の精神にのっとり自分の幸福の為に、一生懸命に、仕事に、はげんで下さい。

 本書は、文章は少なく、書籍用紙にモノクロ印刷の写真が9割くらいを占めている。見方によっては安易な作りに見えるかもしれないが、これがどうして重量級のノンフィクションに思えるのだ。よくぞ、こんな優れた仕事を残してくれたと思う。小沢の撮った写真は膨大な量らしいから、次には豪華写真集を出版してほしい。ぜひ!

浅草・フランス座の浅草待子(東京 1970年代)

吉原の幇間

落語家 林家正蔵(東京新宿末広亭にて 1972年)


芸人の肖像 (ちくま新書)

芸人の肖像 (ちくま新書)