村井康彦『出雲と大和』を読む

 村井康彦『出雲と大和』(岩波新書)を読む。村井は30年ほど前に『茶の文化史』を読んだことがあって、その本は面白くて印象に残っている。古代史も研究していたのか。
 本書は序章と終章のほか4つの章、「出雲王国論」「邪馬台国の終焉」「大和王権の成立」「出雲国造−−その栄光と挫折」でできている。出雲王国論はよく書けていた。近畿天皇大和王権の前に出雲王国があったとする。出雲の勢力範囲は北陸から長野県まで及んでいた。出雲の大国主信仰ではしばしば盤座が伴う。大きな石を信仰したのだ。また四隅突出墓という古墳も出雲文化圏に特有だとして、その分布を調査している。
 そして魏志倭人伝の記載から伊都国を九州の糸島市としながら、それを帯方郡との中継地として邪馬台国奈良盆地の中央、田原本町にあったと結論付けている。そこへ九州から神武が東征し、邪馬台国を破って大和王権を成立させたとする。
 邪馬台国に関する論証と大和王権の成立の論証は恣意的な展開で、到底納得がいかないものだった。どうしてこんな論証を書いたのだろう。それは「あとがき」に書かれていた。

 本書は当初『宮都の風景』という題で執筆を予定していたが、宮都の原像を語るのに、いつも『魏志倭人伝』のなかの卑弥呼の王宮の表現(「宮室・楼観・城柵、厳かに設け、常に人あり、兵を持して守衛す」)を借りてよしとしていたことに飽き足らず、歩を進めて『魏志倭人伝』の世界に入ったところ、ミイラ取りがミイラになってしまった。

 出雲論でやめておけば、ユニークな良い本になったのに。たいがいの古代史論は恣意的で思いつきだけの独りよがりのものが多いように思う。それでも本書はけっこう売れているようだが、題名の良さで得をしているのだろう。高い評価を与えることはできなかった。


出雲と大和――古代国家の原像をたずねて (岩波新書)

出雲と大和――古代国家の原像をたずねて (岩波新書)