最近ペットボトルに入ったマテ茶が売られている。これはマテ茶だろうか。マテ茶は南米のマテの葉から作るお茶の一種だ。本当のマテ茶がレヴィ=ストロースの『悲しき南回帰線』(講談社文庫)に紹介されている。ブラジルのマト・グロッソ地方で、
……日に二度は−−朝の11時半と夕方の7時には−−住宅の廻りに巡らした露台に皆が集って、南米特産のマテをストローで飲むシマランという日に二度の仕来りがある。マテの木は樫と同科の灌木で、その細枝を地中に掘った炉の煙でかるく焙って、灰緑色の大粒の粉にひき、小さな樽に詰めて、永い間保存されたものがいわゆるお茶(マテ)であることは知らぬ人はない。しかし、本物の南米のマテとなるとそうはゆかない。この商標をつけてヨーロッパで売られているものは、大がいすっかり変質してしまっていて、原産地のお茶とは似ても似つかないしろものだからだ。
このマテの飲み方には幾通りかある。調査旅行の途次に疲れ果てたときなど、一杯のマテで疲れをさっぱりと忘れたくてたまらなくなり、われわれは水をさっと沸かし、火をひいて−−これが大切なことだ−−沸とうした瞬間に一握りほどのマテを投げ入れる。こうしなければマテの風味は味わえない。そうするのをシャ・デ・マテ(マテ茶)、これは煎茶の逆を利用したのだ。色は濃緑で、濃縮コーヒーのようにどろどろしている。ひまがないときには、水に一握りほどの粉を入れて、管で吸い込む、いわゆるテレレを試みるのもよい。茶のにが味を好まない人はパラグアイ風の甘茶、マテ・ドセの方がよいだろう。そのときはマテに砂糖をまぜて火にかけ、飴のようにして、この熱いどろどろを沈ませてから濾すのだ。ところで私の知っているかぎりでは、このマテ好きの人たちは皆シマランを最上のものとしている。これは社会的な仕来りであると共に、個人的に見れば悪風ではあるが、ファゼンダではこれがなければ、日も夜も明けないのである。
まず皆は湯沸しと七輪とクイアを運んで来るシーナ(お茶係)といっている少女を囲んで円坐をつくる。クイアは銀のたがをはめた口のある瓢箪だったり、百姓が彫った瘤牛の角を使ったりしている。容器には3分の2のところまでお茶の粉が入っていて、女の子がそこへお湯を徐々にさしてゆく。それがかき混ざってどろどろになると、穴のあいた球が先についた銀の管で慎重に隙間をあけ、その一番底の汁が集まってくる小さいくぼみの中へ吸引管を入れる。銀の管の方はそのどろどろの壁を水気もちょうどよくて崩れないようにしておかなけれなならない。こうしてシマランの用意ができると、汁がたまるのを待って、まずその家の主人に出す。主人が2、3度吸うと、底を開けて、また同じ操作がそこにいる全部の人に対して繰り返される。順序は男が先で、女が後廻しだが、それは必要に応じて変えることができる。そして湯沸かしが空になるまで、何度でも廻されるのだ。
最初の幾服かのマテには言うに言われない風味がある。少なくともそれは慣れた者の話で、初めての者は火傷する。熱湯に浸した銀と沸とうして泡状になった熱湯とが一つになって、ねばった感じがするからだ。そして、その2、3滴の中に大森林全体の感じが煮詰められているように、香気があってほろ苦い。マテはコーヒーや茶やチョコレートと同じようなアルカロイドを含んでいるが、鎮静力と共に強壮力があるのを見ても、その含有量が(その媒介物のほろ苦い理由も)わかる。マテは数回廻すと、気が抜けたようになるが、それでも吸引管で気をつけて探すと、思いがけないほろ苦さを感じるような、まだ手をつけていない隠れた場所が見つかり、それにはまた一段と味わいがある。
これが本当のマテ茶であり、その飲み方なのだ。ペットボトルのマテ茶なんて、ノンアルコールビールにも劣るのではないか。ちょっと違うかもしれないが。
偉そうなことを言っているが、私も本物の本場のマテ茶は飲んだことがない。ただ乾燥した葉の状態で売られているマテ茶はけっこう好きで飲んできた。これには2種類あって、緑茶状のものと紅茶状のものがある。後者はやはり発酵させているのだろうか。それは飲みやすいが、癖のある緑茶状のマテ茶も悪くないのだ。まあ、「すっかり変質してしまっていて、原産地のお茶とは似ても似つかないしろもの」ではあるのだろうが。
・マテ茶と交差いとこ婚(2007年8月13日)
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