大森望『21世紀SF1000』(ハヤカワ文庫)は2001年から2010年までの10年間に日本で発行されたSFを取り上げて、『本の雑誌』に時評として連載したもの。
本書が選んだ2005-2010年の満点★★★★★の作品を拾ってみた。
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2005年の★★★★★
●グレッグ・イーガン『ディアスポラ』(ハヤカワ文庫SF)は、今年の翻訳SFベストワン確定の大傑作である。邦訳既刊の主観的宇宙論3部作とは全然タイプが違い、今回は"ウルトラスーパー・ハードSF"の異名をとる宇宙冒険もの。解説にも書いた通り、後半の展開は、イーガン版『宇宙船ビーグル号』とか、デジタル版「スタートレック」の世界。妙ちきりんな宇宙人もちゃんと出てきます。
●ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』『宇宙の果てのレストラン』(河出文庫)。映画公開に合わせて新訳で甦ったバカSFオールタイムベスト。もし万一読んだことがない人がいたら必読。
●アヴラム・デイヴィッドスン/殊能将之編『どんがらがん』(河出書房新社)。異色作家中の異色作家アヴラム・デイヴィッドスンの傑作選。MWA賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の各短篇部門を受賞した3篇を含め、ミステリ、SF、ファンタジーにまたがる全16篇を収める。
●池上永一『シャングリ・ラ』(角川書店)。2005年のトリは、近未来伝奇SF巨編、池上版『帝都物語』というか東京版『レキオス』というか、ものすごい勢いで突っ走る怒濤の1600枚だ。呪術的なモチーフとSF的な設定とキレまくった戦闘美少女(およびニューハーフ)たちが入り乱れ、話はページをめくるたびにぐんぐんエスカレート。行き着く先が見えないノンストップ冒険活劇を堪能してほしい。今年度日本SFベストワンの座を争う、超強力な傑作だ。
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2006年の★★★★★
●ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』(国書刊行会)は、《未来の文学》劈頭を飾るにふさわしい、究極のウルフ傑作選。一読驚嘆したのは、本邦初訳の「眼閃の奇蹟」。『オズの魔法使い』が下敷きとはいえ、まるで椎名誠『アド・バード』のキリスト教版みたいな、しみじみと泣かせる遠未来ロードノヴェラ。「デス博士」「アイランド博士」と併せてウルフ少年SF3大傑作に数えたい。
●ダン・シモンズ『イリアム』(早川書房)。いやもうこれがめちゃくちゃ面白い。スペースオペラの筆頭。今年のベストを『デス博士』にするか『イリアム』にするかは究極の選択かも。
●飛浩隆『ラギッド・ガール』(ハヤカワSFシリーズJコレクション)。今年度日本SFベストワンはこれで確定。なにしろ短篇5篇のうち3篇までが年間ベストどころかオールタイムベスト級の傑作なのである。
●森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)。魔法が日常と同居する京大生の春夏秋冬をマジックリアリズムで描く破天荒なラブコメ。すばらしい。完璧。これさえあればハチクロもパラキスも のだめ も要りません。今年ナンバーワンの恋愛小説。いや、大学生ラブコメのオールタイムベストワンに認定したい。傑作。
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2007年の★★★★★
●なし
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2008年の★★★★★
●池永永一『テンペスト』(角川書店)は大河娯楽小説の王道。19世紀半ばの琉球王国を舞台に、宦官に化けて科試を突破しキャリア官僚となった美少女・真鶴/寧温の波瀾万丈の人生を描く。
●ロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』(創元SF文庫)。3人の少年少女が夜空を見上げる『流星の絆』シーンから始まったかと思うと、一瞬にして星々が消える『宇宙消失』事件が発生。しかもこっちは惑星も月も消える。じゃあ太陽はと言うと、何事もなく昇ってくるんだけど、それは黒点もフレアもない偽物なのでした。
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2009年の★★★★★
●マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』(新潮文庫)。話は酒浸りの中年刑事が主役の典型的なダメ男ハードボイルドだし(別れた女房が上司として赴任してくる)、MWA賞、ハメット賞最終候補という点からもミステリの分野だが、当欄も無視はできない。なにしろこれは、ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』以来15年ぶりに長篇部門で2008年のSF三冠王(ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞)に輝いた改変歴史SFなのである。
●ピーター・S・ビーグル『完全版 最後のユニコーン』(学習研究社)。名作中の名作ファンタジーが新訳(金原瑞人訳)で復活。弱冠31歳の鏡明が30年前に訳したハヤカワ文庫FT版は、チャンドラー愛好者にとっての清水俊二訳のごとく脳裏に刷り込まれているため、今回の新訳は正直、冷静に評価できないが、歴史的傑作であることはまちがいない。
●津原泰水『バレエ・メカニック』(早川書房)。小説の核は、9年前から眠りつづける16歳の少女、理沙。存在しえないはずのその意識が都市と融合し、ありえない現象が東京を襲う。幸いの龍が空を舞い、7本足の巨大な蜘蛛が街を闊歩して、交通網は麻痺。理沙の父である造形家の木根原は、ペルシュロン種の老いた巨馬(体重1トン)が曳く馬車に乗り、娘が眠る四谷の病院をめざして奥多摩の自宅を旅立つ。
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2010年の★★★★★
●マイクル・フリン『異星人の郷』(創元SF文庫)。中世ドイツの村に異星人の船が不時着する話。現代パートの主役は、小村消失の謎を追う統計歴史学者トムと、光速変動理論に憑かれた宇宙物理学者シャロンのカップル。中世側の主役は、オッカムのウィリアムと張り合うほどの知性を持ちながら故あって隠遁中のディートリッヒ神父。持ち前の頭脳でファーストコンタクトの重責を担い、異星人と村人の間に立って尽力する。だが、異星船の修理はままならず、村には黒死病の脅威が……。これは傑作。
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