「DOMANI・明日展2013」を見る


 国立新美術館で「DOMANI・明日展2013」を見る。副題が「未来を担う美術家たち・文化庁芸術家在外研修の成果」となっている。ちらしから、

文化庁により派遣され海外研修を行った作家の発表の場である「DOMANI・明日展2013」は、今回で15回目を迎えることになりました。今回は近年注目を集めている様々なジャンルの作家12名に作品を発表してもらいます。(後略)

 その12名は、曽根裕、米正万也、塩田千春、神彌佐子、橋爪彩、行武治美、澤田知子糸井潤、平野薫、青野千穂、池田学、小尾修。今回はとくに優れた作家が多かった。
 塩田千春は私が最も期待する若手作家。今回、様々な人に提供してもらったたくさんの古い靴を床に並べ、それらの靴に部屋の奥から伸びる赤い糸を放射状に結んで展示している。靴にはそれぞれ紙片がはさまれ、持ち主の簡単なメモが書かれている。一緒に見ていた美術家が、ちょっと目立つ女物の靴に入れられているメモを手にとって読んだ。メモの内容から、この靴塩田千春の靴みたい、やっぱり靴の存在感が違ったわと言った。
 澤田知子はいろんな化粧をした自分を撮影した作品で知られている。今回もそんな作品が展示されていたが、新しい作品も並べられていた。ハインツのトマトケチャップとイエローマスタードの商品ラベルを世界の様々な言語で表していた。アンディウォーホル美術館主催のレジデンスプロジェクトに招待されたのをきっかけに作ったという。ウォーホルはキャンベルスープ缶だった。
 平野薫は誰かが着た古着をほどいて糸にした作品を展示している。糸に返しながら、レースのようにドレスの形を保っていて、造形としても美しいと思う。2004年に銀座のギャラリイKで見た彼女の個展が強く印象に残っている。そのことを2006年にブログに書いた。

2年前(=2004年)銀座のギャラリィKで初めて彼女の個展を見た。床一面にシャツをほぐして粗い刺繍のようになった糸が拡がっていた。その時はそのようなオブジェの展示かと思った。間もなく外から作家が帰って来て画廊の片隅に腰掛け、ゆっくりシャツの続きをほぐし始めた。それを見てシャツが糸に帰っていくことを表現しているのだと思った。死者が土に還っていくことを連想して涙が出た。

 橋爪彩は2009年の第1回所沢ビエンナーレ「引込線」で見て印象に残った。写真のようにリアルなのにどこかシュールで少しエロティックな表現は非凡な才能を感じさせた。今後がとても楽しみな画家だ。
 池田学はミズマアートギャラリーで見たことがあったが、細密でシュールな想像力の豊かさに度肝を抜かれた。海底に沈んだ戦艦が半ば朽ちながらびっしりと海藻に覆われ、その周囲を小魚の群れが泳いでいる。また城が何層にも積み上げられ半ば崩れ、そこに大きな古木が根を張り花を咲かせ、小さな人々が遊んだり生活したりしている。その過剰なイメージの集積が見る者を飽きさせない。似た作風の山口晃との違いもおもしろい。
 さて、小尾修である。1965年生まれ、白日会の会員で武蔵野美術大学非常勤講師を務めている。大変な描写力だ。人物を描いているが、きわめてリアルな作風で、小磯良平を思い出した。巧くて見事で傷がない。文字通り舌を巻いた。ただ、私にとっては興味の持てない方向だった。
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上右:平野薫、上中:塩田千春、その下:橋爪彩、さらにその下:澤田知子
ちらし表紙の左:池田学、右:小尾修