立川昭二『愛と魂の美術館』を読む

 朝日新聞の書評で立川昭二の『愛と魂の美術館』(岩波書店)が紹介されていた。評者はノンフィクション作家の後藤正治

 絵と美術をめぐるエッセー集である。作品は、フラ・アンジェリコ『受胎告知」、シャガール「セーヌの橋」、中宮寺「半跏思惟像」、上村松園「焔」……など54点、古今東西に及んでいる。
 ここしばらく枕元に本書があって、画に見入り、その論考を読みつつ寝入る日が続いた。画の残像や想念のかけらがちらつきながら夢路へと導かれるのであった。

 題名の『愛と魂の美術館』は誤解を生みやすい。美術館の語がついているから美術書と勘違いしてしまう。たしかに54点の美術品の写真が掲載されているが、美術書とは似て非なるものだ。絵に関連したエッセーというか、人生訓が書かれているだけなのだ。哲学とも言い得ない。この本が本体価格3,400円もする。値段が高いのはオールカラー印刷だからなのだが。CPの低さは驚くべきほどのものだ。
 評者の後藤はさらに書いている。

 最終作品に、石井一男の作品が取り上げられている。50代になって世に出、神戸の棟割り住宅に暮らす孤高の画家である。童女とも野仏とも菩薩とも見える「女神」像。評者の好きな画家でもあるが、「ただ無心にたたずんでいる」ゆえに「ふかぶかとした世界」へと誘ってくれるとの指摘、うなずくものがある。

 石井一男はテレビ番組「情熱大陸」などに取り上げられ、また新聞にも大きく紹介されたことがある。その点、何度も新聞に取り上げられて人気のある放浪の画家村上肥出夫と共通するところがある。しかし、棟割り長屋に住もうと豪華な邸宅に暮らそうと作品とは何の関係もない。石井の作品も村上の作品も単に卑俗なものに過ぎない。
 また立川は、石川大浪描く「杉田玄白」図を「日本の肖像画でも屈指の傑作といえる。レンブラントの作品にも匹敵する名作である」と評している。レンブラントの作品にも匹敵するとは恐れ入った。



石井一男展のDM


愛と魂の美術館

愛と魂の美術館