杉晴夫『人類はなぜ短期間で進化できたのか』(平凡社新書)と、更科功『化石の分子生物学』(講談社現代新書)を続けて読んだ。前者の副題は「ラマルク説で読み解く」であり、後者は「生命進化の謎を解く」という。
ダーウィン進化論が定説になっている現代において、とうに否定されたラマルクの用不用説に言及するのは時代錯誤のそしりを免れないだろう。杉があえてそれをやっている。
杉は、人類誕生後のあっという間の急速な進化は、定説とされている遺伝子に中立的に起こる突然変異とダーウィンの自然淘汰説からは説明できないと説く。代わって「生体に内在する力」を考えるラマルク説を正しい進化論と主張する。著者の主張はしかしながら大分粗い論証の感が否めない。
それに比べると更科功の『化石の分子生物学』は緻密な論証が、学問とはこういうものだと教えてくれる。化石のDNAが解析され、ついでそれが誤りだったことが解明される。そうした研究が次々に繰り返される。
更科はラマルクについても触れている。
……ラマルクは、すべての生物は単純な種から複雑な種へと、エスカレーターのように一方的に進化していくと考えた。いつの時代にも単純な生物は、自然に無機物から発生しており、それぞれが複雑な生物に向かって進化をはじめるというのである。
さらにラマルクは、すべての生物はほぼ同じ進化の道筋をたどると考えていた。つまり、現在さまざまな生物がいるのは、それぞれの生物が自然発生してから経過した時間が違うからであり、単純なものほど新しく、複雑な生物ほど古くに発生したのだと考えていた。たとえば、ニホンザルは、人間よりも自然発生するのが、少し遅かったというわけだ。(中略)
生物の間に見られる類似性をこの(ダーウィンの)「種が分岐する」という考え方で見直すと、壮大なイメージがあらわれる。すなわち、「すべての種は、ただ一種の祖先に由来する」というイメージである。(中略)
「ニホンザルが進化したら人間になるの?」と質問されれば、ラマルクなら、イエスと答えただろう。しかし、本当の答えがノーであることは、ダーウィンの壮大なイメージから明らかだ。
ラマルクの進化論は批判されて然るべきだろう。しかし、ラマルクの後継たる定向進化説や今西錦司の進化論は安易に否定しがたいと思えるのだ。突然変異と自然淘汰が進化の原動力だというのが納得しがたい。昆虫と植物の精密な共生がそれで説明できると思えないのだ。
さりながら、10年近く前、国際虫えい学会で京都大学に行ったとき、今西錦司のひ孫弟子にあたるという京都大学教授の昆虫学者から、今西の進化論は物語にすぎない、棲み分け理論も同じで物語だ、と皮肉たっぷりに言われたときの衝撃も忘れることができない。
自然淘汰に批判的な進化論の著書2冊、河野和男『カブトムシと進化論』(新思索社)と奥野良之助『金沢城のヒキガエル』(平凡社ライブラリー)を読み直したい。
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・種内変異(2009年5月22日)
・奥野良之助「金沢城のヒキガエル」の進化論批判(2007年5月24日)

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