出版広告のいろいろ

 朝日新聞朝刊にハルキ文庫の全面広告が掲載されていた(11月19日付け)。文庫だけで全面広告を出すのは、ハルキ文庫のほか角川文庫、幻冬舎文庫などがある。もっともこの3社は親戚みたいなものだ。ハルキ文庫の角川春樹事務所も幻冬舎角川書店が出身だ。経営理念が似ているのも不思議はない。

 その対極にあるのが河出文庫の新聞広告だ。新聞1面の下段にある書籍専門の広告スペース、いわゆる三八(サンヤツ)広告で、普通他社はこの小さなスペースに1冊か2冊くらいしか掲載していない。河出書房新社はここに『小説の聖典』『家族収容所』『哲学の練習問題』など文庫を6冊も取り上げている。

 またほとんど新聞広告を打たない出版社もある。例えば、NTT出版は10月に毎日新聞と読売新聞に書評が取り上げられた。毎日新聞には、ブルーノ・S. フライ『幸福度をはかる経済学』が、読売新聞には、久保文明/中山俊宏/渡辺将人『オバマアメリカ・世界』がそれぞれ高い評価を与えられて紹介されている。この優れた出版物を刊行しているNTT出版は、しかしほとんど新聞広告を出していない。せいぜい他の出版社が発行しているPR誌に出稿しているくらいだ。
 このように新聞広告のスペースに大小極端な差があるのは、会社の売上げの規模や広告に対する考え方の相違があるのだろう。
 もう30年も前になるだろうか、佐川急便が出版社を設立したことがあった。佐川出版は当初数冊の「佐川新書」を刊行した。その頃ある専門出版社の社長(ただし社員ゼロ)が佐川出版を指して、あそこは間もなく潰れますと予言した。その予言がなぜ当たったか。社長曰く、佐川出版は他社の編集者数人を引き抜いて設立した。しかし佐川急便は出版には素人なので編集者がいれば出版社ができると短絡的に考えた。出版社には編集者と営業マンが必須なのです。営業マンがいない佐川出版は早晩潰れるでしょう。
 出版社の営業マンの役割は何か。書店に対する働きかけだ。読者は新聞広告などで新刊を知るほか、書店で見て買うことが多い。書店にどの本を並べるかを決めるのは書店員の仕事だ。平台に並べて目立たせるか、棚に表紙が見えるように陳列する(面陳という)か、棚に差して背が見えるだけにするか、または書店に並べることなく返本してしまうか。その重要な書店員に働きかけるのが出版社の営業マンなのだ。晶文社にいた優れた営業マン萬洲さん(?)を思い出す。
 私は出版広告に関する正解を知っているなどとうそぶくつもりはない。むしろ分からないと言っていいだろう。さて、どんな規模が適正なのだろう。