巷房での作間敏宏展「治癒」を読む

 銀座1丁目のギャラリー巷房と巷房2,それに巷房階段下の3カ所で開かれている作間敏宏展「治癒」については昨日紹介した。その際、3階の巷房の展示がよく分からないと書いた。その後私なりに読んだ今回の個展について再度書いてみたい。
 巷房階段下の狭い空間には木箱が何段も重ねられ、底に藁が敷かれて5ワットの電球がぎっしりと置かれている。これは孵化を待っている卵とか、集団でひっそりと暮らす小さな命を思わせた。
 同じく地下の巷房2では薄暗い空間に小さな家型のオブジェが並べられている。10年以上前のギャラリー日鉱で行われた個展が再現されている。日鉱の個展では、とても広いスペースに農家が野菜を栽培するビニールハウスを3棟建て、床に藁を敷きそこに5ワットの電球を配置していた。これは命が育てられているのだろう。2つのスペース階段下と巷房2に共通するのは電球という命だ。
 これが3階の会場巷房では豚の生皮で作られたビニールハウスを思わせる造形に変わる。巷房2と共通するのはその形だけだ。ここにはもう電球がないばかりか、明るい空間に穴が開けられた豚皮のハウスが建っている。それは風通しがよい空間とも空虚な空間とも言える。
 3つの会場で行われている個展だが、これらは一体のものだろう。するとどういうことが考えられるか。まず階段下に設置された孵化を待つような生命体が、巷房2では育てられている。その地下から階段を登って3階の巷房へ上がると、そこには豚皮で作られた空虚な空間がある。もう電球=命はない。おそらく巣立ったのだろう。空虚な空間は雛たちが巣立った空っぽな鳥の巣を思わせないだろうか。
 今回作間が表現したのは、生命が生まれ育まれ、やがて巣立っていったという物語、ある種の家族の歴史ではなかったか。いや、作家からは読み過ぎだよと笑われるかもしれない。しかし、これも観客の自由な読解の一つなのだと許容してもらおう。おそらくいくつもの読解が可能なのだろう。多くの観客の感想を聞いてみたいものだ。
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作間敏宏展「治癒」
2012年8月20日(月)−9月1日(土)
12:00−19:00(最終日17:00まで)日曜休廊
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巷房+巷房2+巷房階段下
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル3FおよびBF
電話03-3567-8727
http://www5.ocn.ne.jp/~kobo/