国立新美術館の「具体」を見て


 六本木の国立新美術館で「具体」展が開かれている。副題が「ニッポンの前衛 18年の軌跡」という。同展のパンフレットより、

世界が認めた日本の前衛美術グループ、「具体」
その全貌が、ついに東京で明らかになる
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具体美術協会(「具体」)は、1954年、吉原治良をリーダーに関西在住の若い美術家たちで結成された前衛美術グループです(1972年解散)。グループ名は、「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示したい」という思いをあらわしています。
「具体」は「人のまねをするな」「これまでになかったものを作れ」という吉原の厳しい指示のもと、奇想天外な発想でユニークな作品を次々と生み出しました。それらは当時、国内ではほとんで評価されませんでしたが、欧米では注目を集め、解散後もヨーロッパの美術館では"GUTAI"の回顧展が何度も企画されています。日本でも、1980年代になって再評価が進み、関西を中心に回顧展が開かれてきましたが、残念ながら東京ではこれまで、その18年間の活動の全容を振り返る場は一度もありませんでした。

「具体」その名前を知りながら、私も全体の姿(の一環)を見たのは初めてだった。吉原治良が主導し、「これまでになかったものを作れ」と言った結果、大きな紙を突き破ったり、キャンバスに絵の具を打ち付けたり、着色した水をビニール袋に入れて木から吊したりと美術の概念から外れたようなものが作られた。田中敦子は色電球のドレスを作り、白髪一雄は足を使って絵を描いた。そしてフランスからアンフォルメルミシェル・タピエが見に来て高く評価した。これはアンフォルメルだと。
 タピエに出会って具体は変化する。アンフォルメルの影響が強くなる。作品も洗練される。美術の概念から外れた作品が少なくなる。ついで若い美術家が入ってきて、具体の作品が多様化し、具体らしさがなくなってくる。1972年吉原が急死し、具体は解散する。
 国立新美術館で開催されたにも拘わらず、どこか不満が感じられるのは「具体」の全貌を紹介しようとするあまり、40人近い作家が取り上げられている。そのため一人一人の作品が少なくなってしまった。最近アメリカでも評価され始めたという上前智祐も2点しかない。
 そうは言いながら、知らなかった作品が見られるのは有益だった。吉田稔郎の油彩の作品がリーウーファンに似ている。もちろん吉田の方が古いのだ。正確には似ているというより、どちらもアンフォルメルの影響を色濃く受けているというのが正しいのだろう。
 白髪一雄は早い時期から足で描く方法を身につけている。しかしそれが亡くなるまで続いたというのは、ちょっとだけビュッフェを連想してしまった。
「具体」がアンフォルメルの影響を受けなかったら、ここまで洗練され高い評価を受けることはなかっただろう。だが、アンフォルメル自体はこれまた袋小路に陥らざるを得ない運動ではなかっただろうか。
 今回「具体」のまとまった姿に触れることができて、その魅力と限界がよく分かった気がする。この展覧会の企画は本当に優れたものだったと思う。担当された国立新美術館主任研究員の平井章一さんに厚くお礼を申しあげたい。
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「具体」
2012年7月4日(水)−9月10日(月)毎週火曜日休館
10:00−18:00(金曜日は20:00まで)
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国立新美術館
東京都港区六本木7-22-2
電話03-5777-8600
http://www.nact.jp/