タイ系アメリカ人作家の『観光』を読む

 タイ系アメリカ人作家ラッタウット・ラープチャルーンサップの短篇集『観光』(ハヤカワepi文庫)を読む。作家は1979年にシカゴで生まれ、タイのバンコックで育っている。作品は英語で書いているが、登場人物も舞台もタイだ。とても才能のある作家で、優れた短篇集だ。主人公の母親がタイを訪れる観光客について言う。

「セックスと象だよ。あの人たちが求めているのはね」ママは、観光シーズンたけなわの8月、島中を走り回っているガイジンに飽き、モーテルの部屋で使用済みコンドームを目にするのにうんざりし、5つの言語で文句を言う泊まり客にげんなりすると決まってこう言う。そしてぼくを見てこう言うのだ。「おまえがいくらこの国の歴史や寺院や仏塔、伝統舞踊、水上マーケット、絹織物組合、シーフード・カレー、デザートのタピオカを見せたり食べさせたりしてもね、あの人たちが本当にやりたいのは、野蛮人の群れのようにばかでかい灰色の動物に乗ること、女の子の上で喘ぐこと、そしてその合間に海辺で死んだように寝そべって皮膚ガンになることなんだよ」

 この「ガイジン」という短篇の冒頭はつぎのようになっている。

 ぼくたちは暦をこんなふに分けている。6月はドイツ人−−サッカー・シューズ、ばかでかいTシャツ、分厚い舌−−がやってきて、唾を吐き捨てるように喋る。7月はイタリア人、フランス人、イギリス人、アメリカ人がやってくる。イタリア人はスパゲッティに似たパッタイが好きだ。明るい布地、サングラス、革のサンダルがお気に入り。フランス人はふくよかな娘、ランプータン、ディスコ・ミュージック、胸をはだけるのがお好みだ。イギリス人は青白い顔をなんとか見映えよくしようとここに来て、ハシシが大好物、アメリカ人はいちばんデブでいちばんケチ。パッタイや焼きエビ、ときにはカレーが大好物な振りをする。でも、週2回は自分たちの料理、ハンバーガーとピザを食べる。最悪の酒飲みでもある。酔っぱらったアメリカ人のそばには、絶対に近寄ってはならない。8月は日本人を連れてくる。日本人のそばにはぴたりと張りついていること。円の力をみくびってはならない。手にした大国の大金で、買えないものはなく、しかも日本人は育ちがよすぎて値切ることを知らない。モンスーンが吹き始める8月の終わりまで、日本人たちは一丸となって、背中をたたき合い、薬を交換し、ベッドをともにし、島にあるバーのピンク色の明かりの下で酒を酌み交わし続ける。9月になると日本人はみな出ていき、オーストラリア人と中国人に島を明け渡す。もっとも中国人はそこいらじゅうにいるので、あえて挙げる必要もないけれど。

 それで思い出したことがある。ブラジルの娼婦が言ったということだ。彼女たちは日本人を好むという。なぜなら、日本人は小さくて早くて変なことをしないから。では欧米人は、大きくて遅くて変なことをするのだろう。で、変なことって何だろう。


観光 (ハヤカワepi文庫)

観光 (ハヤカワepi文庫)