版画を買いたいと言った人に

 絵の好きな知人が、有名画家(仮にKと呼ぶ)の版画を60万円で買おうと思うと言う。止した方がいいですよ、あんなのは本物じゃないからと言うと、本物だよ、だってサインがあるしと言われた。
 有名画家の版画と称するのは多くエスタンプといって、オリジナル版画ではなく複製版画なんです、と言ったが信じてもらえなかった。
 その頃たまたま旧知の老舗の画廊の社長に会った。Kのバカ高い版画の事を話すと、最近ある版画家に会ったという。その版画家がKの版画を描いている。Kの原画をもとにその版画家が版画作品に起こしているのだ。むかしは金がなかったのに最近はパリッとしたスーツを着てセレブみたいな格好をしてたんだよ。それで、最近のKの版画はKというよりはあんたの作品だねって言ったら、プイッてあっちに行っちゃったよ。Kは下手な画家で、むかしは自分で版画を作っていたから版画も下手だった。最近の作品と比べればすぐ分かるよ。
 こんな風に画家ではなく職人が作る版画をエスタンプという。たしかに画家がサインを入れているが、それでもオリジナルではなく複製にすぎない。数万円ならともかく、60万円というのはあまりに高すぎる。東山魁夷エスタンプで200万円というのもあった。こんなものに手を出すべきではない。

 オリジナル版画は画家が版画を制作する目的で下絵を描き、版作りと刷り、最終チェックに至るまで作家自身で、または作家の監修によってできあがった作品のこと。これに対してエスタンプとは、作家が版画にすることを意図しないで制作された作品を原画とし、作者または遺族の了解を得て、版画の技法で第三者が制作したもののこと。(「絵画の知識百科」より)


エスタンプ(2006年11月11日)

 エスタンプとは、版画の技法で第三者が制作したもののことなのだ。