森本恭正『西洋音楽論』がすばらしい!

 森本恭正『西洋音楽論』(光文社新書)がすばらしい! 副題が「クラシックに狂気を聴け」というものなので、発売直後に書店で見かけても手に取らなかった。うさんくさい気がしたのだ。それが新聞の書評で評価されていたので読んでみる気になった。
 著者はヨーロッパで活躍している作曲家で指揮者だという。だから自分の活動から体験したことを書いている。それが驚くべき内容なのだ。まずジャズやロックに限らず、クラシック音楽もアフタービートであると言う。またクラシックもスウィングする。それは日本人の感覚とは全く異なる。
 弦楽器のルーツは西アジアにあって、これは二手に分かれて世界に伝播した。一つはジブラルタル海峡を通ってスペインからヨーロッパへ、もう一つはインドから中国、朝鮮から日本へ。西アジアで生まれた弦楽器にはFUZZ=歪みが付いていた。それがヨーロッパでは取られてきれいな音になる。インドから日本まで渡った楽器ではこの歪みが付いている。その歪み、邦楽器のような「さわり」という歪みがあると和音が作れない。和音はこの歪みのないヨーロッパでのみ生まれた。

 私達日本人は、この『さわり』という非整数な倍音によるノイズを付けて、楽器の中に自然を持ち込んだ。即ち、旋律ではなく節を、休符ではなく間を、和声ではなく音色によって音を構成し、邦楽という世界を作り上げた。それは、音そのものにおいても、精神においても自然そのものに近い何かであって、固(もと)よりMUSICとは異なる。

 また、クラシックはスウィングするのだ。むしろジャズがスウィングをクラシックから学んだ。

アフリカ系の作り出した、ヨーロッパ音楽には無い独特のハーモニーに、ヨーロッパの単純なスウィングを組み込んだのが、ジャズ音楽ではないかとと思っている。

 本書は全編対話で成り立っている。文章が生き生きしていて魅力的なのだ。読んでいてわくわくしてしまった。クラシック音楽について、とてもユニークな説得力のある主張だと思う。クラシック音楽が好きな人には興味深い読書となるだろう。


西洋音楽論 クラシックに狂気を聴け (光文社新書)

西洋音楽論 クラシックに狂気を聴け (光文社新書)