ひな人形の混乱

 3月3日の朝日新聞「be on Saturday」の特集がサトウハチロー作詞の童謡「うれしいひなまつり」だった。その有名な歌詞が間違っているという。

お内裏さまと おひなさま
二人ならんで すまし顔

 浅草橋「吉徳」の資料室長小林すみ江がその間違いを指摘している。

 歌詞では「お内裏さまとおひなさま」とあるが、あり得ない呼び名だ。正しくは男雛(おびな)と女雛(めびな)で、男女の人形一対を指して内裏雛(だいりびな)と言う。歌が広まるとともに間違ったいい方も広まった。

広辞苑』を引いてみた。

だいりびな(内裏雛)  雛人形の一種。天皇・皇后の姿をかたどって作った男女一対の人形。三月の雛の節句に飾る。大内雛。だいりさま。おだいさま。
おひなさま(御雛様)  雛人形。雛祭。

 なるほど、大間違いだ。サトウハチローもこの間違いに気付いていて、自分の作品のなかでこの歌を一番嫌っていたという。しかし、こんなにポピュラーになると、事実上の標準となっていく。「歳時記カレンダー」にも雛祭を解説して、

お雛様とお内裏様に、「お茶を差し上げましょう」。「ご馳走を作りましょう」。お寿司に、酢の物、すまし汁……。小さな小さな竈(かまど)でご飯を炊いて、トントントンと野菜を刻んで。

と書かれているし、NHK日曜美術館の女性アナウンサーも「お内裏様とお雛様」と言っていた。将来の辞書には、お内裏様=男雛、お雛様=女雛、と書かれるだろう。江戸時代は「しだらない」と言っていたのが現代では「だらしない」になったし、麒麟がジラフと混同されてついにキリンに定着したように。いや、ちょっと違うか。