富岡多恵子『写真の時代』を読む

 富岡多恵子の『写真の時代』(筑摩叢書)を読む。これは雑誌『カメラ毎日』に1976年から2年間連載したものをまとめたもの。もう35年も前になる。あまりに古いし、しかも富岡は写真のことに詳しくないと言っている。にも関わらず内容は意外に古びていない。
 富岡がまだ高校生のころ、父親がライカを買ってくれた。それで毎月カメラ雑誌を買い、コンテスト写真を見て批評文を読んでいたという。それから25年たってカメラ雑誌に連載をすることになり、何冊かのカメラ雑誌を見て、月例コンテスト写真を見た。それは25年前と変わっていなかった。月例コンテスト写真て何か変なのだ。以前、広告写真家の横木安良夫さんが、カメラ雑誌のコンテストの写真と私たちの写真は全く別のものだと断言していたことを思い出す。
 本書で紹介されているゲオルグ・ゲルスターの写真集『グランド・デザイン』に興味を持った。すべて航空写真で、人間の土地を写している。アルゼンチンのパンパスでの刈り入れ、マリのティンブクトゥ近くのソンガイ族の村落、フランスのマレンヌ近くのカキ養殖場など、鮮明な写真で見てみたいと思ってamazonで検索したが、日本では発売された形跡がなかった。
  
 その他、カメラの使用説明書の分かりにくさ、戦争中の軍部による不許可写真、エグルストンの写真、石川文洋ベトナムの写真、リチャード・アベドンの肖像写真、須田一政の『風姿花伝』、E. J. ベロックの裸体写真、上野彦馬の写真、前田真三の芸術写真(この人には北海道に写真美術館がある)、レニ・リーフェンシュタールのヌバ族の写真、桑原甲子雄等々が取り上げられている。
 そうかあ、カメラは進化しているのに、写真は進歩していないのだ。そんなことが分かったのだった。


写真の時代 (筑摩叢書)

写真の時代 (筑摩叢書)