佐藤優『インテリジェンス人間論』を読む

 以前、佐藤優の『国家の罠』を読んでいたら、ロシアの大統領エリツィンが男同士でディープキスをすると書かれていた。もう少しレベルの高い親愛の情の示し方もあるのだが、それは日本の文化とかなりかけ離れているのでここでは書かないでおこう、とあって、いったい何をするのか気になっていた。それがようやく分かった。佐藤優『インテリジェンス人間論』(新潮文庫)より、

(1997年クラスノヤルスクで橋本龍太郎総理とエリツィン大統領の首脳会談があった。会談のために鈴木宗男佐藤優が橋本総理にエリツィンとの付き合い方を講義した)。
 クラスノヤルスクでも急遽、パーティー用にサウナが増設されることになったとの情報が入ってきた。私はロシア流サウナの入り方について説明する。
佐藤優  サウナでは白樺の枝で背中を叩きます。酔いが回るとエリツィンは変なところを突っついてくるかもしれません。それから、ロシア人は男同士でキスをします。キスは3回します。右頬、左頬、最後は唇です。
橋本龍太郎  男同士でキスをするのは気持ち悪いな。
鈴木宗男  総理、ここは国益です。それにロシア人は、本当の同士だということになるとアソコを握ってきます。これも「ああ気持ちがいい」といって是非受けてください。
 橋本氏は嫌な顔をして聞いている。鈴木氏の説明に誇張はない。私もロシアの政治家とサウナに入り、イチモツを握り合って約束をしたことが何回かある。旧約聖書にも「手をわたしの腿の間に入れ、天の神、地の神である主にかけて誓いなさい」(「創世記」第24章2-3節)と書いてあるので、古式の誓いの伝統がロシアには残っているのだろう。

 ほかにもおもしろいエピソードが満載されている。佐藤優米原万里ととても親しかった。

 エリツィン大統領は米原万里さんをとても信頼していた。実は、ごく限られた人々にしか知られていないが、ソ連崩壊前、ロシア共和国最高会議議長時代のエリツィンの対日政策には米原万里さんの意見がかなり反映されているのである。

 ついで、変化がないというのも重要な情報だ、とあり我が意を得た。

 筆者は報告を続けた。
「川奈提案について、ロシア側の検討状況には過去2週間変化がありません」
「あんた、変化がないというのも重要な情報だ。明日、またモスクワに行って様子を探ってきてくれ」
「わかりました」 小渕氏が述べた、変化がないというのも重要な情報だ、というのは、まさにインテリジェンスのプロの発想なのである。

 画家が個展などで過去の発表履歴を用意してないことがある。ファイルなり履歴の紙1枚でいいから提示すべきなのだ。私は初めての個展なので書くようなことがないのです。いや、初個展というのも重要な情報なのだ。


「国家の罠」のささいなエピソード(2006年12月27日)


インテリジェンス人間論 (新潮文庫)

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国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

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