多摩美術大学美術館の吉田哲也展がすばらしい


 東京都多摩市にある多摩美術大学美術館の吉田哲也展がすばらしい。いや正確には「表現する葦」という企画展で、美術館の1階に若林砂絵子の作品を展示し、2階の2部屋を使って吉田哲也の作品を展示している。
 吉田哲也の彫刻作品はみな小さい。右の部屋には10個の台の上にトタンや針金の作品が1個ずつ置かれている。3面の壁面にも針金の作品と幅1cmほどの帯状の作品が展示されている。
 左の部屋には5個の台が設置され、その上にこれまた小さな白い石膏の立体作品が置かれている。石膏の塊から直方体に近く削りだしたような形。ついで最後の個展に出品された立体が並んでいる。数個の小さな直方体の石膏を組み合わせたような作品。壁にはMOTアニュアルに展示された、小さな小さな針金を二つに折り曲げた作品が何個も釘で留められている。
 右の部屋のトタンや針金の作品が美しい。台形に曲げられたトタン板、L字形に曲げられたトタン板、箱の蓋のような形の薄いトタンの作品、平仮名の「く」の字に曲げられた針金、先がちょっとだけ曲げられた針金。
 どうしてこんなものが美しいのだろう。ところがこれがすばらしい作品なのだ。吉田の作品は寡黙で緊密だ。ミニマルとも違うと思う。作品には手作業の痕跡が強く残されており、寡黙でありながら美の主張がある。でなければちょっと曲げられただけの針金がどうしてこんなに美しいのか。
 ほかに客がいなかったせいもあるが、展示室は静まりかえり寡黙な小さな作品が強い存在感を示していた。すばらしい展示だった。吉田の非凡な才能を実感した。生前、個展会場で話しをしたり、MOTアニュアルのオープニングの招待状をもらったことが思い出され誇らしい気持ちになった。こんなすぐれた彫刻が正に生み出される現場に居合わせることができたのだ。
 吉田哲也は1964年名古屋市生まれ、多摩美術大学彫刻科を1988年に卒業し、東京藝術大学大学院彫刻専攻を1991年に終了している。その後文化庁から派遣されてロンドンへ留学し、ときわ画廊や藍画廊、ギャラリーTAGA、ギャラリーGANなどで個展を開いている。1996年にはセゾン美術館の「視ることのアレゴリー」、また東京都現代美術館の「MOTアニュアル1999」にも参加している。惜しいことに2005年に40歳で亡くなってしまった。だが死後も評価は高く、昨年は佐倉市立美術館の「カオスコスモス09」にも1室を与えられている。


       ・
佐倉市立美術館の吉田哲也(2010年3月15日)
吉田哲也遺作展(2009年4月29日)
追悼吉田哲也ーこの寡黙な彫刻家へのオマージュ(2007年3月21日)
       ・
「表現する葦」
2011年10月29日(土)ー12月4日(日)
10:00−18:00(休館日は火曜日)
入館料:一般300円、大・高校生200円
       ・
多摩美術大学美術館
東京都多摩市落合1-33-1
電話042-357-1251
http://www.tamabi.ac.jp/museum/
京王相模原線小田急多摩線多摩モノレールの「多摩センター」駅から徒歩5分