西原理恵子をちょっと読み直す

 西原理恵子の「上京ものがたり」(小学館)のあるエピソードを見たくてパラパラめくっていたが、結局また始めから読み直してしまった。西原の人間観察は本当に鋭い。
「私」は四国の田舎から上京し美大に入学するが、学費や生活費を稼ぐために歌舞伎町で水商売のバイトをする。仲よしになった近所のじいさんが、親戚が出版社に勤めているから絵を見てもらえと有名な出版社へ連れて行ってくれる。親戚はその出版社で倉庫の荷下ろしをしている人だった。
 応接室で待っていると、現れたのはキャリアウーマンであろう女性編集者で「彼女は(私が)仕事先でも学校でも親のまわりでもみたことのないかっこいい女のひとでー」私のイラストを1枚ずつ丁寧にみてくれ最後に言った。「一番得意なタッチでもう1枚かいてきてもらえますか」しかし、もってきたイラストはとにかくどんな小さなカットでももらえるようにと、エロからスポーツ・風景すべてを誰かにマネたカット集で、それは私が何でもないただ者だという事の証拠だった。「私」は深く恥じ入っている。顔が青紫色に塗られていてそれが分かる。

 ただマネだけしているイラストレーターの卵と一流出版社の一流編集者の対比が描かれている。しかしこの立場は10年しないうちに逆転する。「私」西原は多額の所得税を課されて、母親に問う。私去年いくら稼いだのよ? 母親の答えが8千万円よ、だった。一流のキャリアウーマンには到底到達することのできない世界なのだった。
 さて、10月9日付けの毎日新聞に掲載されている西原理恵子の「毎日かあさん」は「息子育て」が副題。「息子育てがちょっと一息ついて思う。男の子を育てて良かったこと」として、いくつか箇条書きされる。「怖がらせて楽しめる」「一緒に外を走りまわれる」「一緒にもりもりごはんを食べる」「肉料理が得意になる」「虫や電車にくわしくなれる」「くだらないギャグが得意になる」「一緒にUFOを信じる」、そしてラストのコマが……

「好きな人の子供のころが見られる」
 それは子どもたちの父親で先年亡くなった鴨志田穣のことだ。アル中が原因で離婚したものの再婚を考えていたらしい。でも亡くなってしまった。このコマがとても哀切だ。

上京ものがたり

上京ものがたり