江成常夫の戦跡の写真展と太田三郎展

 東京都写真美術館で江成常夫写真展「昭和史のかたち」が開かれている(9月25日まで)。太平洋戦争に関連した写真展で、これがとても感動的だった。いくつかのテーマで展示されている。
 まず「鬼哭の島」として、戦場となっていた太平洋の島々の戦跡を撮っている。パプアニューギニアのジャングルの中に残る日本の重爆撃機の残骸。インドネシアのビアク島に残る日本兵の遺骨。同じビアク島に転がっているガソリンタンク、日本兵への火攻めに使われたものだという。パラオには朽ち果てたアメリカ軍の爆撃機も放置されている。
 つぎの「偽満洲国」では現在見られる満洲の遺跡が取り上げられている。「シャオハイの満洲」は中国残留孤児の肖像写真が並べられている。どの写真の顔も決して幸福そうな表情をしていない。
 最後に「ヒロシマ」と「ナガサキ」が続いている。原爆の被災者の現在の肖像写真だ。それらが溶けた茶碗の塊などの原爆の遺物の写真と交互に並べられている。写真説明は多くはないのだが、この人が被災者で戦後65年にわたって苦労してきたのだとある。何度も自殺を考えたとか、兄弟は後遺症に苦しんで自殺したとか書かれている。被爆者の肖像写真は直接に悲劇が写されているわけではないが、何か大きな存在感が感じられる。本展で最も感動的なものだった。
 銀座ニコンサロンでも江成常夫写真展「GAMA」が開かれている(8月16日まで)。こちらは「昭和史のかたち」から、沖縄の戦跡に絞って展示されたものだ。沖縄にはまだ遺骨がたくさん放置されているという。
 写真集も発行された。江成常夫写真集「鬼哭の島」(朝日新聞出版)は太平洋の島々および沖縄の戦跡を収めた写真集だ。色川大吉が解説を書いている。
 戦跡と言えば、東京銀座3丁目のコバヤシ画廊で太田三郎展「戦災痕」が開かれている(8月20日まで)。太田は日本各地に残る戦災の痕跡を撮影して、それを切手シートの形に加工して版画作品としている。太田の仕事も優れて意義のあるものだ。戦災痕をこのような作品に昇華している。

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江成常夫写真展「昭和史のかたち」
2011年7月23日(土)−9月25日(日)
10:00−18:00(金曜日は20:00まで)
月曜日休館(月曜日が祝日の時は開館し、翌火曜日休館)
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東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3(恵比寿ガーデンプレイス内)
電話03-3280-0099
http://www.syabi.com
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江成常夫写真展「GAMA」
2011年8月3日(水)−8月16日(火)
10:30−18:30(最終日は15:00まで)
8月13日(土)、14日(日)休廊
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銀座ニコンサロン
東京都中央区銀座7-10-1
電話03-5537-1469
http://www.nikon-image.com/activity/salon/
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太田三郎展「戦災痕」
2011年8月8日(月)−8月20日(土)
11:30−19:00(最終日17:00まで)
日曜日休廊
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コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1F
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/


鬼哭の島

鬼哭の島