「江戸バレ句 戀の色直し」という川柳の解説書

 渡辺信一郎「江戸バレ句 戀の色直し」(集英社新書)を読む。
 30年以上前に読んだ古い川柳で、大意は憶えているが正確な言葉を忘れてしまったものがあり、時々関連書を読んで探している。しかし本書にもそれは見つからなかった。
 バレ句とは艶笑句のことで、エロチックな内容の川柳を言う。「誹風末摘花」が有名だそうだが、本書は江戸時代から明治までの文献からバレ句の傑作を拾っている。しかし、これがなかなか難しく、解説がなければ何を言っているのか分からない。

ちんちょうでちもだと新造抜かしたり
(逆さ言葉。「ちんちょう」は提灯、「ちも」は餅。俚諺「提灯で餅を搗く」。老人客が陰萎であることを若い女郎が暴露する)

 江戸時代にEDのことを提灯で餅を搗(つ)くなんて言ったのだ。
 次のは単純におもしろかった。

御背中へかかとを上げて御意に入り
(殿様の妾が、奥方のしないような両足で男の胴にからみつく体位をして、寵愛される)

 そうか、奥方はしないのか。

障子突き抜きへのこにばあをさせ
(硬直させて障子を突き破る悪戯)

 なんだ、慎太郎は「太陽の季節」で本歌取りをしていたのか。さすがにもう提灯となって障子も破れまいが。
 次のも解説がなければ分からない。

門(かど)の井が近くて水を遣(つか)い過ぎ
(「開」は女性器。分解すると「門」「井」。近くに情交相手がいて疲労困憊)

 こうなると謎かけみたいなものだ。

提灯の突っ張りになる山鯨
(提灯の張り材は鯨骨。陰萎の補強には猪肉。山鯨は猪肉の別称)

 昔屋台をやっていた時に、これからどこぞへ繰り込むんだと言っていた男たちが生卵を飲んでいた。最近ではユンケル皇帝液か、いやバイアグラがあった。先日会った夜の帝王Tさんがよく効いたと言っていた。
 ほかに、いくつか。

師の恩は今に忘れぬ痔の痛さ
(男色。寺小姓)

白魚の力帆柱引き起こし
(弄根)

又昼間かへと枕を嫁は出し
(昼取りに少しは慣れて)

 それにしても、エロチックなことをテーマにいろいろ言っているんだけれど、その表現において、または視点において、いかに新機軸を出すかということなのだろう。それは現代の表現でも同じことだ。