編集プロダクションの存在

 吉田秀和の「永遠の故郷」シリーズが、2008年2月発行の「夜」から始まって「薄明」「真昼」と続き、今年1月発行の「夕映」で全4冊が完成した。歌曲に焦点を絞って著者の半生に絡めて語っている。雑誌「すばる」に連載したものだ。これらのエッセイを読みながら、語られている歌曲を聴いてみたいと思わせる。
 さて、今回は奥付の話だ。本には最後に「奥付」と呼ばれるページがある。ここには標題、著者名、発行年月日、時に印刷年月日、発行者、発行所、印刷所、製本所などが記されている。もっとも印刷年月日、発行者、製本所は記載しないことも少なくない。印刷年月日はふつう発行年月日より10日ほど前の日付にすることが多いのだ。これは戦前の検閲の名残ではないかと思っている。印刷し終わった本を警察に提出し、許可が得られたら発行した。だから現在は印刷日の記載は不要なのではないか。発行所と別に発行者(たいてい出版社の社長)を入れるのも、検閲と関係があると思う。何かあったときの責任者だ。
「永遠の故郷」の「あとがき」には「綜合社の齊籐厚子さんに(中略)心から感謝します」と書かれている。それで奥付を見ると、ちゃんと「編集 株式会社 綜合社」と書かれていた。発行が集英社で編集が綜合社なのだ。ではこの綜合社とは何か。業界で言う編集プロダクション(通称編プロ)のことだ。現在多くの出版社が編集プロダクションの協力を得ている。しかしほとんどの奥付にその名前は記載されていない。全くの影の存在なのだ。本書には明確に編集プロダクションの名前が記載されていてとても好感が持てたのだった。これもおそらく吉田の意向によるものではないだろうか。
 ちなみに、ある植物学者が成美堂から植物図鑑を、講談社学術文庫で専門書を出されたが、どちらも一度も出版社を訪れることはなく、出版社の編集者に会うこともなく、打合せはすべて喫茶店で編集プロダクションの人と行ったという。


永遠の故郷――夕映 (永遠の故郷)

永遠の故郷――夕映 (永遠の故郷)