やくざ小唄と練鑑ブルース

 もう40年以上前になるが、横浜の鶴見で屋台のラーメン屋をやっていた。その時の仲間で安ちゃんというのがいた。本名を安藤と言った。安ちゃんは私より1つ上だったが、屋台の仕事に入ってきたのは私より1週間あとだった。そんなことで割と仲が良かった。安ちゃんは中学を卒業してすぐ東京へ就職し、彼女とデートする金がなくて恐喝をしたという。捕まって練馬の東京少年鑑別所に入れられた。そこで「やくざ小唄」と「練鑑ブルース」を憶えたのだ。これらの歌はいろんなヴァージョンがあるようだが、これはいわば安ちゃんヴァージョンだ。安ちゃんは身体もがっちりしていて喧嘩も強かったが、鑑別所ではオカマを掘られたと言っていた。

「やくざ小唄」


【語り】ホケキョと出ました渡り鳥
縮緬(ちりめん)三尺ぱらりと散って
花のお江戸は大東京
ネオン瞬く東京の屋根の下
白粉(おしろい)つけた紅(べに)つけた
女ばかりが花じゃねえ
やくざばかりが男じゃねえ
今日もゴロ明日もゴロ
ゴロゴロにさまようおいらにも
たった一つの恋があった
今じゃ厭なズベ公に見初められ
どこで歌うかおいらの歌を
やくざ小唄が身に染みらあな


やくざなるなら堅気になれと
可愛いあの子が泣いて言う


泣いたからとて堅気にゃなれぬ
義理も人情も意地もある


やくざ渡世の裏道ゆけば
今日も降る降るドスの雨


刺せば監獄刺されりゃ地獄
それを承知のやくざ道

「練鑑ブルース」


身から出ました錆ゆえに
チンケなポリ公にパクられて
手錠掛けられ意見され
着いたところが裁判所


検事判事のお調べに
ついた罪名恐喝罪
父さん母さん許してなあ
みんなおいらが悪いのさ


青いバスに乗せられて
ゆらり揺られて行く先は
その名も名高き練馬区
東京少年鑑別所


格子窓から外見れば
思い出すだろスーちゃんを
スーちゃん今ごろ何してる
俺の帰りを待ってるかい

 安ちゃんは酒癖が悪くて、酔うとたいてい喧嘩をしてきた。二人連れの男たちの間へ割って入り、振り返ってにらんで喧嘩を売っていた。夜中に血だらけで帰ってきたときは喧嘩に勝ったときで、負けたときは無傷で帰ってきた。栃木の佐野出身で、ついに強い訛りが直らなかった。
 当時安ちゃんはまだ21歳だったが、バーの年上のママなどによくもてた。子持ちのママに求婚されていた。近所のかわいい若い娘にももてた。坊主頭でダボシャツにセッタだった。
 私が屋台をやめたあとも安ちゃんは1年ほど屋台を続け、その後大工になったと屋台のオヤジさんが教えてくれた。