ブリジストン美術館の「アンフォルメルとは何か?」

 京橋のブリジストン美術館で「アンフォルメルとは何か?」という展覧会が開かれている(7月6日まで)。副題が「20世紀フランス絵画の挑戦」と刺激的だ。そのちらしの言葉を次に写す。

第二次大戦後のパリで起こった前衛的絵画運動「アンフォルメル」。フランス語で「非定形なるもの」を意味するこの言葉は、1950年に批評家ミシェル・タピエによって戦後のフランスに胎動する新たな非具象的な絵画として提唱されました。これはフォートリエ、ヴォルス、デュビュッフェを先駆者として、ミショー、スーラージュといった作家たち、加えて当時パリにいたザオ・ウーキー、堂本尚郎今井俊満などがこれにかかわりました。彼らは、それまでの絵画の具象的、構成的、幾何学的なイメージを脱却し、理性では捉えられない意識下の心の状態から生み出されるものの表現を試みました。戦後フランスにおいて、モネ、セザンヌピカソを超えた新しい絵画の創造を目指した画家たちによる、約100点の作品をご紹介いたします。

 書き写していて、的確な紹介だと感心した。さて、アンフォルメルは個々の作家や作品は紹介されてきたが、こうしてまとめて見るのは(私にとって)初めてだった。ブリジストン美術館では1957年にタピエ自身が企画に参画して、アンフォルメルの動向を紹介する「世界美術展」が開催された。それは大きな反響を呼んだらしい。
 アンフォルメルの名前を知ったのは、針生一郎さんのお宅に初めて山本弘の作品を持参した折り、10点近い山本の油彩を見ながら独り言のように、この人はどこでアンフォルメルを学んだのだろうとつぶやかれた。帰宅後早速アンフォルメルを調べ、フォートリエの作品を画集で見たが、針生さんが山本のどの作品を目してそう言われたのか分からなかった。山本の作風は多様なのだ。今回この展覧会を見てその作品がどれなのか分かった。
 フォートリエなどのアンフォルメルの作品は、非定形、非具象的、非構成的、非幾何学的なので、素人でも簡単に真似ができそうに見える。そのためか、フォートリエはデッサンの大切さを力説していたという。先日東京都現代美術館で話された池田龍雄さんも、読売アンデパンダン展が閉鎖に至ったのはアンフォルメル的な作品がどっと増えたためだと言われていた。
 アンフォルメルの作品一般が悪いわけではない。アンフォルメル風の作品が手軽に出来てしまうことが問題なのだろう。針生さんがつぶやかれたアンフォルメルの影響を受けたと見られる山本弘の作品は、本当に優れたものだった。残念ながら電灯光で撮られたちゃちな写真しか残されていない。作品は東邦画廊で開かれた初期の個展で販売された。ここにその写真を掲載するが、サインがないため正確な天地(上下左右)が分からない。縦にしたり横にしたりすることによって、鋭さが現れたり、広がりが現れたりした。山本弘のこの作品はアンフォルメルの傑作の一つだと思う。

山本弘「題不詳」10F、1978年制作