「デフレの正体」がすばらしい

 藻谷浩介「デフレの正体」(角川oneテーマ21)を読んだ。とても面白くて、売れている理由がよく分かった。一番の欠点は題名で、何やら難しそうで損をしているだろう。私も買ってから読むまで3カ月も放置していた。副題が「経済は「人口の波」で動く」というもの。内容は日本の経済の動き、現在の不況を分析している。
 藻谷の経歴を読むと、

2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。平成合併前の約3200市町村の99.9%、海外59ヶ国を概ね私費で訪問した経験を持つ。その現場での実見に、人口などの各種統計数字、郷土史を照合して、地域特性を多面的かつ詳細に把握している。

 本書は、「著者が累計3,000回以上行ってきた講演経験を基に構成しました」とあるように、講演口調でもあり読みやすい内容だ。
 さて、日本は不況だというが、日本の貿易黒字は高い水準で推移してきている。日本の輸出額は2007年に80兆円、これはバブル最盛期の1990年の2倍の額なのだ。しかも貿易黒字は過去20年以上、輸出の上下に関係なく平均10兆円超の水準を維持してきた。
 その黒字の多くは輸出企業と、そういう企業の株主になっている高齢富裕層の財布に集中していて、また海外に再投資され、それが外国から金利配当を呼んでいるという。
 さらに今後中国が発展すればさらに日本の輸出は伸びるだろう。ところが日本経済は停滞している。それはなぜか。著者はその原因を日本の人口構成の変動によるとする。具体的には現役世代の減少と高齢者の激増による。戦後のベビーブーム層が定年退職し、若者人口が減少し続けている。日本の生産年齢人口=消費年齢人口が減り続けているのが国内の消費停滞の本当の原因なのだと言う。これらの主張が具体的な数字をあげて示されている。強い説得力がある。
 高齢者は金融資産があっても消費には回さない。病気など将来見舞われるかもしれないリスクに供えなければならないからだ。
 著者の提案する対策は具体的で実行可能に思われる。国内の消費の停滞を改善するために若者の所得を大幅に増やすこと。高齢者にも魅力的な商品を開発すること。これはユニクロ任天堂Wiiハイブリッドカーなどが例として挙げられている。また相続税を改定して生前贈与がしやすいようにする。現在では相続を受けた子などの平均年齢が67歳であるとされていて、この年齢で相続しても、すでに多くを所有しているので消費の欲求も少ないし老後の貯えに回されやすいから。ついで、女性の就労と経営参加を当たり前にすること。また労働者ではなく、外国人観光客と短期定住客の受け入れを図るとする。
 日本経済の根本的な問題がよく分かった。本当にすばらしい本だ。ただ1点、題名の難しさを除いて。これで「もしドラ〜」のような標題が付けられていたら、一大ベストセラーになっていただろう。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)