中公新書の「江戸の思想史」を読む

 田尻祐一郎「江戸の思想史」(中公新書)を読んだ。新書に江戸時代の思想史が取り上げられるのは久しぶりではないか。これが手際よくまとめられている。主要な思想家たちを網羅して遺漏がない。江戸時代の思想家たちの見取り図がよく分かる。240ページほどの小さな本なのに。
「序章 江戸思想の底流」から始まり、「宗教と国家」「泰平の世の武士」「禅と儒教」「仁斎と徂徠(1)方法の自覚」「仁斎と徂徠(2)他者の発見、社会の構想」「啓蒙と実学」「町人の思想・農民の思想」「宣長−−理知を超えるもの」「蘭学の衝撃」「国益の追求」「篤胤の神学」「公論の形成−−内憂と外患」「民衆宗教の世界」と目次を並べただけで江戸時代の思想史が網羅されていることが分かるだろう。
「禅と儒教」の章では、沢庵と鈴木正三を取り上げて禅が語られ、中江藤樹山崎闇斎儒学が語られる。王陽明に近づいたところで夭折した藤樹と、朱子に帰れと官製朱子学を批判した闇斎を。藤樹に学んだ熊沢蕃山から統治論たる経世論が始まった。
 伊藤仁斎朱子による論語孟子の解釈を否定して、直接古典に当たることを主張し、荻生徂徠は古代中国の文章を学ぶことによって論語を正しく読むことができるとしてそれを実践した。
 徂徠は、「道」は聖人=人が作ったという。こうして道=制度が天から人に引き戻される。またこの章では徂徠の弟子たちが紹介される。太宰春台と服部南郭だ。
 ほぼ1つの章が20ページ前後、それで江戸思想を網羅しているのだから手際いいことこの上ない。あとがきを読んだら、最後に次のようにあった。

 最後に−−卒寿を越えられてなお、最前線で意欲的なご研究を重ねておられる源了圓先生に本書を読んでいただき、ご感想・ご批判をいただけることの幸せを、著者として噛みしめている。

とあった。源了圓は30年以上前に、この中公新書で「徳川思想小史」を発行している。なるほど二人は師弟関係にあったのか。

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)