横浜美術館の高嶺格展「とおくてよくみえない」を見た

 私が東北関東大地震に横浜の桜木町で遭遇したのは、その日横浜美術館高嶺格展を見に行ったからだった。見終わって美術館を出て10分経たないうちに地震が起こったのだった。見る前でなく見た後だったのが不幸中のわずかな幸いだった。
 高嶺格はここ数年の間に「God Bless America」の映像作品を、東京国立近代美術館とあとどこかで2回見ている。とても面白い作品だった。2トンもある粘土を、作家と友人、女友達が協力してこねて、ゴリラや父ブッシュ大統領などに作りかえていく。18日間のアトリエのできごとをコマ落としの手法で8分18秒の映像作品にしている。高嶺格の作品について感想を書いたことがある。

 「God bless America」もビデオ作品で、アトリエに住み込んで粘土で彫刻を作る作家と友人や恋人の姿を撮影している。粘土は2トンという大きなもの、それを友人たちと手や足まで使って、ゴリラにしたり、アメリカ大統領?に変えたりする。コマ落としという手法で、18日間をわずか十数分に短縮している。朝が来て昼になり日が陰って夜になり電灯を付ける。作家は彫刻を作り、パソコンを叩き、隅のベッドで恋人と愛を交わし、眠る。音はなく、バックミュージックとして終始God bless Americaの歌が流れている。

 あんなに面白いと思った作品も3回目となると、もうこれ以上見なくてもいいやという気持ちになった。
 さて、横浜美術館での個展では、最初の部屋にタペストリーのような作品がたくさん展示されている。多くはない観客たちがその作品を熱心に見ている。私は朝日新聞に載ったこの展評を読んでいたので、この部屋はさっさと通り過ぎた。2月16日の西田健作の解説、

 入り口に展示中止作の主人公「木村さん」の写真を掲げた。続く新作「緑の部屋」では、一つ前の「ドガ展」の会場をそのまま使い、ドガの絵画の代わりに約20点の毛布や布をかけた。一部には、柄をもっともらしく解説したものも。美術館という制度を冷やかしているともとれる。

 ちょっとだけ、ジョン・ケージの曲「4分33秒」を連想した。
 西田が紹介している「木村さん」という作品は、これも以前紹介した私のブログを再掲載すると、

 2年ほど前だったか、横浜美術館で予定されていた高嶺格のビデオ作品が直前に展示を外されたことがあった。美術館による自主規制とのことだった。問題になったビデオの内容は、脳性麻痺だったかで重度の障害を持つ身障者に作家高嶺が手で刺激して射精させてあげ、それを作家の額に括りつけたビデオカメラで撮影したものらしい。もちろん被写体となった身障者の同意も得てある。

 今回の個展の新作「とおくてよくみえない」も映像作品で、すべてシルエットで表現されている。何人もの男女が画面の中に入ってきて、床から出ている棒状のものを次々とくわえていく。しゃぶったり顔を上下運動する者もいる。明らかにフェラチオをイメージしている。会場を出ると作品に使われた棒状のものが展示されていて、陶器で作られていたことが分かる。
「God Bless America」でも性交しているショットがあったし、「木村さん」も射精させる作品だったようだ。「とおくてよくみえない」もフェラチオだ。高嶺の性への過剰とも思えるこだわりに、ちょっと引いてしまっている自分を発見した。もしかして、俺ってけっこうピューリタンなのかもしれない。いやModestyを自分のファースト・ネームに選んだのだから当然なのだが。(Modesty M. Polo
 横浜美術館高嶺格展「とおくてよくみえない」は3月20日まで。
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God bless Americaというビデオ作品(2007年9月27日)
東京国立近代美術館の「わたしいまめまいしたわ」と常設展(2008年2月13日)