50年と1週間

 末盛千枝子の「人生で大切なことはすべて絵本から教わった」(現代企画室)は東京・代官山にあるヒルサイドテラス(槙文彦設計)の一角にある会員制図書室で1年間にわたったセミナーをまとめたものだ。末盛は初め絵本の出版社で編集者をし、のちに自分の出版社すえもりブックスを立ちあげた。セミナーでは多くの絵本との出会いが語られている。
 その中で、父舟越保武に書いてもらった絵本の原画のことが紹介される。

『ナザレの少年』は、ジー・シー・プレスに勤めていたときに出した本です。すえもりブックスを立ちあげるときに、ジー・シー・プレスから出版の権利を譲ってもらいました。私の父、舟越保武のデッサンだけでできたクリスマスの本です。

 この本の原画は描き始めたら1週間でできた。依頼してからなかなかできなかったのに、

 それで父に、「1週間でできたじゃない」と言ったら、「馬鹿言え、50年と1週間だ」って(笑)。それはちょっと冗談めかしていますけれども、でも、仕事ってやっぱり「50年と1週間」だと思いますから、あれは名言だったなと今でも思います。

 これと同じ台詞が言われるのをテレビで見たことがあった。言ったのは濱田庄司だった。大きな皿にさらさらっと釉薬をかけたのを見て、テレビのリポーターだったかが、先生、2,3分で何十万円の作品ができるのですねと言うと、濱田がすかさず○○年と2,3分だと答えた。濱田と舟越のどちらがオリジナルかと問えば濱田だろう。一人はテレビで発言していたのに対し、他の一人は娘に答えていただけだから。


人生に大切なことはすべて絵本から教わった

人生に大切なことはすべて絵本から教わった