日本カメラに掲載された渡辺兼人の「忍冬」

 日本カメラ2011年1月号口絵に渡辺兼人の写真「忍冬(すいかずら)」が掲載されている。これがとても良い。いつも通りモノクロ写真だが、今回のテーマは水のある風景らしい。7ページに7点の作品が掲載されている。
「口絵ノート」に載っている渡辺の言葉。

 山野に生える常緑のつる性植物。葉、茎は漢方薬にも使われる。日本中、河、湖、どこにでも生えているごくごく何ものでもない忍冬。この何ものでもない、どこにでも偏在する、河岸、湖水の緑を歩行し、散策し、どこにでも在る光景、そして、何ものでもない写真を求め、初めて大型カメラ(5×8)を使い、その不自由さな撮影行為の中であらためて写真の運動性の自由さを思いしらされた。




 渡辺兼人は1980年に新潮社から発行された金井美恵子の中篇小説に写真で合作した「既視の街」で大きな評価を得た。ブレッソンの写真の決定的瞬間と全く正反対の写真だった。人も車も写っていない無音の街角、そんなものをテーマに写真を撮ったのは渡辺兼人が初めてだったのだ。当時それを見たときの驚き! 私も少しだけ真似て信濃町から新宿まで歩いて街を撮影したことがあった。「既視の街」は手放してしまったが、現在Amazonで8万円と3万円で売られている。渡辺兼人四谷シモンの弟だということは最近まで知らなかった。
 さて、この5×8の大型カメラといえば、フィルムサイズが5インチ×8インチのことだから、約13cm×18cmになる。製品写真などや記念写真を撮るいわゆる4×5(シノゴ)より一回りも大きいのだ。
 撮影データは、カメラがタチハラ5×7・ニッコール300ミリ、トライXとある。最近この作品等で京都の何必館京都現代美術館で個展をやっていたらしい(1月16日まで)。見たかった。
 紹介した写真は日本カメラのページを複写し、スキャナーで読み込んだもの。印刷された写真はずっときれいだし、大型カメラで撮ったプリントは限りなく細部が再現されていてそれは見事なものだろう。