「男性の本性」を書いた本は何か?

 読売新聞の日曜日の書評欄に「本のソムリエ」というコーナーがある。本に関する読者の質問に作家たちが答えてくれる。11月21日付けの本蘭は「男性の本性を書いた本」がテーマだった。

 尊敬していた70代の独身男性に20代の恋人がいると聞いてびっくりしました。よく耳にする「男性の本性」について書かれている本を教えてください。(神奈川県 ナース 66)

 回答者は嵐山光三郎で、谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」(中公文庫)をあげて、「77歳の卯木督助(谷崎の分身)が、踊り子あがりの驕慢な嫁颯子に惹かれていく妄執をつづった小説で、ドナルド・キーン氏は「老人の性を扱った世界的傑作」と絶賛しています」と紹介している。
 ついで川端康成「山の音」(新潮文庫)を「息子の嫁菊子に対する尾形信吾の恋心をつづった老人恋愛小説」と書いている。また、川端の「眠れる美女」(新潮文庫)については、「老人が睡眠薬で眠らせた娘をいじりまわるという秘密売春の話で、エロも文豪の手にかかれば珠玉小説となります」とこれは身も蓋もない言い方。
 4冊目としてジャコモ・カザノヴァの「カザノヴァ回想録」(河出文庫=絶版)を紹介して、最後にこう結んでいる。

 カサノヴァは、自分の娘にまで手を出そうとした色事師で、好色が徹底している。まあ、カサノヴァまでいかなくても、年老いた男どもは死ぬ寸前まで性の妄想にとらわれているのですよ。

 同年代の友人たちを見回せば、早いのは40代後半で性にほとんど興味を失ったというし、対極の友人はまだしょっちゅう風俗に通い10歳年上の恋人がいると言う。おそらく年齢に限らず性への興味の強弱は個人的に大きくばらけていて様々なのだ。
 嵐山が紹介する「瘋癲老人日記」も「山の音」「眠れる美女」もおもしろかった。川端は「眠れる美女」の後で、もっと徹底した「片腕」を書いている。老人が若い娘から片腕を1本借りて一晩抱いて寝る話だった。これにヘンリー・ミラーの何かを加えてもいいかも知れない。さて、私にはいつか老人の性が語れるだろうか。