トイレの覗き穴

 男はとことん見るのが好きなのだ。それは男が好きな男たちでも同じらしい。そんなことを知ったのは、以前何度か銀座のなびす画廊で個展をしていた作家の作品を見てからだった。彼は江古田の画廊ちめんかのやでも個展をしていたし、VOCA展に選ばれたこともあった。いつも若い裸の男たちを描いていて、彼らが戯れているような絵だった。ある時の個展の作品は風呂で四つん這いになった男の尻を他の二人の男たちが覗き込んでいるものだった。男同士でも見たがるものなのかと印象に残った。
 新宿にある京王高速バスのバスターミナルの地下にある待合室の男性用トイレは小便所横の大便所の壁がステンレスで覆われている。これはおそらく覗くための穴を壁に開けるのを防ぐためだと思った。何度穴をふさいでもまた穴を開けるヤツがいるので、ついにステンレスで覆ったに違いない。
 さて、営団地下鉄日本橋駅の男子用トイレを使ったとき気になったことがあった。使ったのは「小」だが、横の壁に穴があるように思えたのだ。夕方のトイレは利用者が多く、そんなことを調べている余裕がない。土曜日の昼頃日本橋駅を通ったのでこの時とばかり調査してみた。利用者が少ない時を見計らって、壁に眼を近づけてみると穴が開いているように見える。壁の反対側である大便所に誰も人が入っていなかったので、そこに入ってみた。やはり直径数ミリの穴が開けられていた。そこから覗くと目の真ん前にちょうど「小」を排泄している器官がばっちりと見える位置だった。この壁もコンクリートで作られており、厚さは数センチあるのではないか。どんな道具を使ったのか根気のいる作業だっただろう。その情熱と努力に脱帽する。

小便所と大便所の間に壁があり、そこに穴が開けられている

丸で囲んだ中に穴がある

大便所の中から見た穴
実は穴の開けられた壁を尻にするように大の便器が取り付けられている。だから穴の存在はなかなか気づかれないだろう。
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 売れっ子の画家会田誠の処女小説「青春と変態」(ABC出版)を思い出した。全編主人公の会田君の便所覗きがテーマだったけど、あれは男が女の便所を覗く話だった。
 私がこんなにトイレの穴に神経質なのは、まだ20代の頃トイレで覗かれた経験があり、それがトラウマになっているからだ。当時東京駅丸の内口の有料トイレは何とハッテン場だった。30年以上前は、JRや地下鉄、駅ビルなどのトイレの壁にはたいてい穴が開けられていたのだった。

青春と変態

青春と変態