松原一枝「文士の私生活」(新潮新書)を読む。もう94歳のおばあちゃん作家。長生きしているので交流のあった文学者たちの数も多い。滅多に人を食事に誘わないという川端康成に食事を誘われているので、若いときはきれいだったのだろう。
阿川弘之とは同人誌仲間で若い頃から親しかったし、多くの先輩作家たちからも好意的に付き合ってもらっている。松原の人柄も良かったのだろう。交流のあった文学者たちは、円地文子、宇野千代、広津和郎、坪田譲治、白洲次郎、森茉莉、安部公房、島尾敏雄の恋人K、遠藤周作、志賀直哉、亀井勝一郎など多岐にわたる。
島尾敏雄の「死の棘」について、
私はKさんのことを書くので、はじめて「死の棘」を読んだのである。「死の棘」ではKさんらしい「女」は、姿を見せずに、電報、手紙などで脅迫する。その度に妻は発作を起こすのである。
「死の棘」は構成上、ひどい加害者がいて、被害者がいることで成功している。小説として成功しているのであるから、いうことはないのだが、Kさんが「死の棘」の「女」と一致しないのが感情的にすっきりしない。
数々のエピソードが紹介されて本書が構成されている。作家たちの知られていないエピソードが語られており、決して退屈な本ではない。松原一枝の名前は今回初めて知ったが、過去に田村俊子賞を受賞している。しかし作家として成功した人ではなかったと思う。成功するためにはあまりにも上手いとは言えない文章だった。
- 作者: 松原一枝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/09
- メディア: 新書
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