マスコミの相撲協会叩きへのなだいなだ氏の意見

 なだいなだ氏が、「ちくま」2010年9月号で相撲協会野球賭博に関する事件に対して意見をしている。日本社会は過去、暴力団と深い関係があった。

 そもそも暴力団という呼び名が問題だ。昔のヤクザ即暴力団ではないが、歴史的にはつながりがある。明治に博徒大弾圧があり、博徒ヤクザは建設業に流れ込んだ。あるいは興業を取り仕切るようになった。組と名前のついた建設会社は大体この時代に生まれた。さらにヤクザの末裔が暴力団などと味も素っ気もない名前で呼ばれるようになった。名前が変わったばかりでなく、実体も変わった。ヤクザと呼ばれていた時代、ヤクザ内部では、暴力を用いて問題を解決したが、いわゆる一般人(おしろうとさん)には、迷惑をかけないという掟があった。(中略)
 ヤクザの中には人物として面白い人もあったし、板垣退助自由民権運動にはヤクザが加わり政治家になったものがいる。小泉元首相のおじいさん又次郎もその一人だ。背中に立派な昇り龍の入れ墨があって、逓信(のちの郵政)大臣になって、認証式のため宮中に入ろうとして、皇宮警察に入れ墨の人はダメと阻止されたという逸話がある。

 だが、「今の暴力団は昔のヤクザとは違う」という。

 だからいう。今の世論の方向は誤りだ。マスコミの世論の誘導の方向は間違っている。暴力団を叩かないで、相撲協会を叩いてどうするのだ。暴力団を十分に取り締まらないできた警察や政治を叩くべきなのに、相撲という文化をつぶしてどうするのだ。国技であろうとなかろうと、相撲は見て面白いスポーツだ。(中略)今回の事件はそのスポーツのために、古い狭い社会で生きてきた力士が、自然と社会の常識に疎くなったから起こしてしまった過ちだ。「こらあ、馬鹿者、反省を土俵の上で示せ」といえばすむ。賭けに加わっていなかった、マジメに相撲をとってきた力士たちの生活まで奪うような連帯責任的処罰を、大相撲全体に科してどうするのだ。今の相撲叩きは、戦時中の非国民つるし上げを、連想させてしまう。ちょっと異常だ。

 至極妥当な意見だと思う。