「森山大道 路上スナップのススメ」がおもしろかった

森山大道 路上スナップのすすめ」(光文社新書)がおもしろかった。著者は森山大道と仲本剛。森山は街をスナップする「ブレ・ボケ・アレ」で有名なカメラマンだ。コダックトライXという高感度フィルムを使ってファインダーを覗かないで撮るノーファインダーという手法も使っている。だが最近はデジカメも使うようだ。
 今回、編集者の仲本剛が森山のスナップ撮影に同行してそのルポルタージュとその時の作品を紹介している。写真はすべてこの企画のための撮り下ろし。路上スナップに選んだ場所は、江東区砂町、中央区佃島中央区銀座、羽田空港とその周辺、東京から栃木県足尾までの国道。
 さて、本文から。

(教えている)写真学校では、コマーシャルを専攻している学生も森山の授業を受けることがあった。そんな彼らにも、森山は「路上スナップをやれ」と教えたという。曰く、「街の中には物体がゴロゴロしているのだから。そこで身に付けたスナップワークは、広告を撮るようになったときに、かならず反映される」からだ。他方、ドキュメンタリーの写真家を志す学生には、「物を撮れ」と教えたという。
「それは、漠然と物を撮るのではなく、『こだわりを持って撮れ』ってことだけれど。一軒の家を撮るときは、『家一軒でフィルム10本撮れ』と教えていた。それは、何かを見極める目というのは、集中し、こだわらないと生まれないものだから。

 砂町を撮ったときの森山の言葉、

 商店街を撮るときは必ず往復すること。僕は必ずそうしている。それは、往きと帰りでは、だいたい光線が逆になるから。見えてくる物が違うんだよ、同じ道でも。逆光で見てさほど面白く見えなかった物でも、順光で見れば面白かったり……。大げさに言えば街の風景が変わってくる。そうするとまた、別のショット、イメージが撮れる。だから、商店街や通りを撮るときは、必ず往復すること。もし急いでいて、往復することができない場合には、必ず振り返る。しばらく歩いたら必ずね。それで気になったものがあったら、迷わず戻る。

 羽田空港へ行ったときはこう言った、

(羽田は)まず撮る対象、要素そのものが少ないよね。そういう場所でどういうイメージが撮れるのか。ほかの街では僕は、人の匂いといったものをついつい探し歩く癖があるんだけれど、こういう場所ではそれはしない。もちろん人間がいれば、点景として撮る。それはそれで常套手段ではあるけれど、羽田という場所を表現するには、良い視覚的効果をもたらすと思うからね。基本的には、より無機的な、現代の都市の風景が撮れればいいな、と考える。
 ただ、正直に言うと僕は、広角レンズでロングに引いた画というのはあんまり撮らない。写真集や本にするときは、編集の段階でバランスを考えるから、そういうカットももちろん取り混ぜて入れてはいるけれどね。なんていうか、ワイドで引いて撮っちゃうとさ、単なる風景写真みたいに自分で見えてきちゃうんだよ。だから、撮っていても、この手は1枚あればいいか、という気になってしまう。飽きちゃうというのかな。自分で意外性を見つけられないというか。気がつくと、ゴタゴタした人間の生活の匂いがする場所に舞い戻って行ってしまう。

 モノクロで撮影している砂町や佃島、国道のシリーズがおもしろかった。だが、「森山は2011年春、全編デジタルカメラによる作品で構成した新しい写真集『東京(仮題)』を刊行する予定だ」。そして森山はこう言う。「僕の場合は最終目標が印刷物だから、完成した写真集を眺めて、自分が納得できればそれでいいわけで」と。


森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)

森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)