芥川作曲賞公開審査のVサイン事件

 サントリー芸術財団主催の「サマーフェスティバル2010」で、芥川作曲賞創設20周年記念として、過去19年間の受賞者20人の作品がガラ・コンサートとして演奏される予定だった。昨日書いた理由で、実際には19人の作品が演奏されたが、演奏会で配布されたパンフレットに佐野光司による「芥川作曲賞20年」というエッセイが掲載されている。ここで紹介された「Vサイン事件」が面白かった。

 ところで過去19回のうち男性14名、女性6名と聞いて、はてなと思う人も多いかと思う。19回で20名の受賞者となるからだ。実は第3回のとき、二人の受賞者が居たのである。
 この第3回(1993)が最も問題の多い選考会であった。一柳慧松村禎三黛敏郎の3人の選考委員が、「菊池幸夫、猿谷紀郎鈴木行一」の3人をそれぞれ挙げたからだ。司会者の武田明倫が決着に苦慮していたとき、黛が客席にいた武満徹(前年の選考委員)を見つけて舞台に呼び、意見を求めたのである。
 舞台に上がった武満は「自分は今年の選考委員ではないが」と断りながら、猿谷か菊池がいいだろうと言って舞台を降りていった。鈴木を推していた黛としては不覚をとった形になった。
 困惑した司会の武田が「5分休憩を取って相談しましょうか」と言ったとき、客席にいた佐治敬三理事長(1919-99)が「公開だから密室はいかんよ」と叫んだのである。
 舞台の3人の選考委員は菊池か猿谷かでますます決定できない状態でいたが、そのとき、佐治理事長が指を2本挙げて司会の武田にサインを送った。それを受けて武田は「ただいま理事長から秘密のサインがありまして、賞を2人にあげてもよいということです」となったのである。これが有名な佐治理事長のVサイン事件である。

 あまりに面白いエピソードだったので、そのまんま紹介することとした。