丸谷才一『文学のレッスン』(新潮社)には面白いエピソードがふんだんに載っている。これは文学について、湯川豊のインタビューに答えて丸谷才一が語ったもの。
丸谷 志賀直哉はスケッチ的短篇小説を書かせるとすばらしい。「焚火」とか「城之崎にて」とか、あれははっきりいってスケッチです。それから、「十一月三日午後のこと」なんかも。スケッチは脱帽するくらいうまいものだけれど、『暗夜行路』となると本当に質が低くなる。「偉大な日本の小説」とはいえないですよ。
丸谷 花田清輝の『復興期の精神』は昭和21年か2年に刊行された本だけれど、そこに収められた文章は戦時中に書かれたものが多いはずです。あの花田清輝の書き方は、曲りくねってどちらともとれるというような文章でややこしいけれど、表現の自由がない時代の書き方なんですね。その筆法は意味があった。ところが戦後も同じ調子でやるとなんだか必然性がないから変なんだね。だから花田清輝の戦後の前衛芸術論とか映画論とかは、『復興期の精神』にくらべて少し落ちる。
丸谷の戦後日本の詩人論も面白かった。鮎川信夫と谷川雁を批判していて、大岡信と田村隆一、そして入沢康夫を高く評価している。吉本隆明や長谷川龍生、石原吉郎については何の言及もなかった。
「戯曲」の項で日本の劇作家では井上ひさしを高く評価している。三島由紀夫や木下順二、山崎正和については、ほどほどの評価だ。しかし、芝居は丸谷の苦手な分野かもしれない。唐十郎、鈴木忠志、清水邦夫、佐藤信らについての記載が全くなかった。
本書に触発されて、私も読んでみようと思った本は、まず山本健吉『古典と現代文学』(講談社文芸文庫)。
丸谷 僕は日本文学総論で最高のものはこの『古典と現代文学』じゃないかと思っているんですが、みんながちっとも褒めないというか、読まないというか、ちょっと不思議なんだね。題が悪いのかしらね。
それから丸谷才一『日本文学史早わかり』(講談社文芸文庫)。和田誠『新・雪国』、これは『雪国』の冒頭を使っていろんな作家の文体模写をやったものだ。ナボコフの回想記である『記憶よ、語れ』(晶文社)もすばらしいエッセイだという。大岡昇平の晩年の日録である『成城だより』(講談社文芸文庫)も読んでみよう。でも、なぜ加藤周一「日本文学史序説」(ちくま学芸文庫)がないのだろう?
- 作者: 丸谷才一,湯川豊
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: 単行本
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