追悼・小松茂美先生

 朝日新聞6月26日夕刊の「惜別」という欄に「古筆学者・小松茂美さん」が取り上げられている。見出しが「名筆の分析 独学で究める」とある。5月21日死去(心不全)85歳と。

 平安から鎌倉時代の文献や断片の筆者を特定し、背景を追求する。そんな「古筆学」は、国文学や美術史など多分野にまたがり、研究の基盤ともなる学問だ。それを、独学で打ち立てた。
 旧制中学を卒業後、鉄道員だった20歳の夏、広島で被爆。病床で手にした新聞で厳島神社の平家納経のことを知り、「美しい経典を見たい」と念じた。仕事の傍ら猛勉強し、神社に日参、ついには進駐軍を動かして経典との対面を果たす。一途に、無手勝流でエネルギッシュに突き進むのが身上だ。
 28歳で、人を介して東京国立博物館学芸部に職を得る。昼は公務員、夜を研究にあて、睡眠時間3〜4時間という努力を重ねて36歳で文学博士に、40歳で日本学士院賞、51歳で若い日の念願を実らせて「平家納経の研究」を刊行し、54歳で朝日賞を受賞。日本中に散在する古筆切(古い名筆の断片)のありかをつきとめ、撮影・分析した「古筆学大全」全30巻は、小松さんでなければできなかった業績と高く評価される。
(中略)
 近年は「後白河法皇の研究」に取り組み、「あと3年は生きて、完成させる」と言っていた。最後の病床でも書き続けていたのに、無念この上ない。

 上記の筆者は大上朝美。的確にまとめていると思う。しかし、小松先生は業績は偉大だったが学歴がなかったので、東京国立博物館では課長までしかなれなかった。
 写真には「自宅近くの書庫で。パソコンやインターネットは使わなかった」とキャプションが付けられているが、10年ほど前に尊円法親王の書を鑑定していただいたときの返事は、教科書体のようなワープロの縦書きで、天地左右に割り印が押されていた。その時のことを以前ここに紹介したことがある。

「小松茂美先生」(2006年9月18日)