金井美恵子が取り上げたM崎さんのエピソード

 金井美恵子が『目白雑録・2』(朝日文庫)で、われらがM崎さんについて触れている。M崎さんはブログのオフ会仲間で何度かお会いしている方だ。

プルーストサン・マルコ広場の敷石体験を持ち出すまでもなく、私たちは記憶が不意打ちで全身を貫く瞬間を稀有な体験として所有している、と、いきなり書くのは、(2004年)9月22日付け朝日新聞の「僕の人生、まるごとパック」という記事を切り抜いておいたのが、何日か前に調べていた歴史年表の間から出て来たせいで、39歳のデジタル製品のプロデューサーの男性が、物心ついてから見たり書いたりしたもの全部(小学校時代のテスト、集めたチラシ、読んだ本など、書類68万枚、段ボール箱50箱分以上)をスキャナーでデジタル化(費用は少なくとも700万円近く)し、書斎の2台のモニター画面に一日中2秒間隔で次々に「思い出」の画像を表示し、仕事をしながらながめている、というのである。モニター画面を見ていると、「過去の記憶が次々によみがえる」のだそうで「いくらでも発見がある。テレビやインターネットをぼっと見ているよりも、自分自身の記録を見直す方が意義がある」というわけである。よみがえる記憶として例に出されているのが「学生時代の恋愛、小学生のときに見た映画で、マジンガーZが敵役に負けて悔しい思いをしたこと……」というのは、不惑近くの男にしてはいかにも貧しすぎるように思えるが、それが自分オタクというもので、本人にとっては「記録」なのだから「意義」があるというわけなのだろう。

 金井美恵子は稀代の毒舌家だから、この程度の毒舌なら軽症だったと言えるだろう。いや、彼女がどんなに毒舌家であるかというと、『目白雑録』(朝日文庫)から紹介すると、

「新潮」と「文學界」には、なんと、またまた『声に出して読みたい日本語』の齋藤孝が登場していて、ベストセラー『粗食のすすめ』の国語版というか、戸塚ヨットスクール国語ヴァージョンに相田みつをが入っているといった類の齋藤を、なぜ「新潮」と「文學界」が重宝に使うのかと言えば(後略)

 さらに、金井美恵子の『待つこと、忘れること?』を書評でほめている林浩平に対してさえ、この書評がいかにバカかと書いているくらいだ。そんなことをしているから、イヤガラセで、しばしば注文したことのない品物が料金引き替えで通販から届くようになる。それも黒蝶貝パール・プラチナ・ブローチや黒のカシミア・コート2着など、北海道産大タラバガニなどが。また、

 そう見たいわけでもない日本テレビの広島・巨人戦にリモコンのボタンを押すと、「顔を描きそこねた犬張子に口のあたりがそっくり」と姉の言う、国語審議会の委員もやっている女性歌人がいつものニタニタ笑いを浮べて、いきなり映し出され、画面がカットされて、女性歌人を訪ねてきたという思い入れで、目尻が下がっているのでこれまたニタニタ笑いに見えるベスト・セラー不倫小説と性差別的文章で知られる小説家が和服姿で映り、なんなんだこりゃあ、と、消音にしたまま見ていると、次は、「口のあたりが福田官房長官と、なぜかそっくり」と姉の言う大江健三郎の(これはニコニコ、という感じ)クローズ・アップになってカットされ、作家は自転車で住宅街をゆっくりと走っている。

 これは読売新聞のCMだった。歌人俵万智だろうし、不倫小説家は渡辺淳一だろう。
 それから島田雅彦が文章が下手だとこき下ろされる。この『目白雑録』は朝日新聞の「一冊の本」に連載されていたもので、連載は現在も続いているようだ。

目白雑録 (朝日文庫 か 30-2)

目白雑録 (朝日文庫 か 30-2)

目白雑録 2 (朝日文庫)

目白雑録 2 (朝日文庫)