「日本一の桜」のタイトルに釣られて読んでしまった

 講談社現代新書の新刊「日本一の桜」を買って読んだ。季節柄みごとな桜が紹介されていると思ったのだ。そうではなかった。日本一の桜を管理・育成している人たちのことを取材した本だった。どの章にも「桜守」という語が頻出する。著者はこの本を「桜守」とか「桜を守る人びと」とか「桜守という人びと」というタイトルで書いたのではなかったか。しかし、それでは売れないないだろうという編集部の判断で現在のタイトルに変えられたのだろうと推察する。
 確かにそういうタイトルだったら買わなかった。そういう意味ではこのタイトルは成功しているが、大きな違和感を持ったという点では羊頭狗肉の譏りを免れない。
 著者丸谷馨の略歴を見ると、

 1959年青森県弘前市生まれ。出版社勤務などを経て、ノンフィクション作家に。著書に「タウンページなぞときたい」(朝日文庫)、「わが家の食卓がガラリと変わるたべもの発見ガイド」(講談社)、「プロ家庭教師の技」(講談社現代新書)、「男の隠し味」(読売新聞社)、「ようこそ、フランス料理の街へ」(弘前大学出版部)など。

 となっている。テーマに一貫性がない。注文に応じて書いているフリーのライターをしている人なんだろう。本文中で気になった箇所があった。桜を愛でる人物を紹介して、西行を取り上げる。

 西行は、自由で柔軟な精神をもちえたからこそ、孤高であっても強く明朗なまでに生きた。永遠に謎めいた生き方に、時代を超越して人々は憧れるのだろう。

 こういう書き方はスカだと思う。本当に共感して書いている書き方ではない。フリーライター特有の軽い如才ないレトリックだ。気をつけなければならないと自戒した。
 しかし、本書で紹介されている全国各地の桜守たちには頭が下がる思いがしたことだった。この人たちのお陰で全国の桜の名所ができているのだろう。
 数年前、夏の終わりに京都で開かれた日本虫えい学会に参加したとき、京都のタクシーの運転手に、大勢のお客さんをあちこちの神社仏閣に案内している運転手さんが見て、京都で一番見事な桜はなんですかと質問したら、その人は即座に平安神宮のヤエザクラですと答えてくれた。この本にも八重紅枝垂れとして紹介されている。

日本一の桜 (講談社現代新書)

日本一の桜 (講談社現代新書)