佐倉市立美術館の吉田哲也

 佐倉市立美術館で「作家はつぶやく」という展覧会が開かれている(3月22日まで)。出品作家は喜舎場盛也、戸來貴規、宮嶋葉一、吉田哲也、和田淳の5人。この内、戸來と喜舎場がアール・ブリュット、和田がヘタウマの極みのアニメ、宮嶋が単純な線と形のタブロー、吉田哲也が極めて単純な形態の彫刻だ。
 私は吉田哲也を見るのが目的で佐倉市まで出かけて行ったのだったが、深く満足した。吉田のために1室が与えられ、そこに12点の作品が展示されている。

吉田哲也(C)佐倉市立美術館

吉田哲也(C)佐倉市立美術館
 吉田哲也の作品はブリキ板や針金、石膏で作られている。今回展示されているものは玄関脇の2点を除いて、いずれも長さ20cm以内の小さなものだ。それが吉田が制作した展示用の台の上に置かれている。台は高さが1mほど、上部が正方形になっていて、全体が白く塗られている。
 作品が置かれたその台が入口から出口まで部屋の対角線上に8点、それに直角に交わって5点が十字形に並べられている。(交叉した中央の作品が縦横ダブるので合計12点)。
 針金の先が少し曲げられたもの、ブリキ板が曲げられて箱状になっているもの、石膏で作られた天井部分が斜面になっている直方体、それらが静かに、だが強い密度を持って展示室のなかに存在している。
 ひとつひとつの作品をゆっくり見ていきながら、吉田哲也という静かな彫刻家の確かな存在を感じていた。こんなすばらしい作品を作っていながらどうして亡くなってしまったのか。
 作家=人はいずれ亡くなる存在だ。しかし作品はそれが静かなものであっても残っていく。作家のことが分からなくなっても作品は残る。
 このように優れた企画を立てられた佐倉市立美術館と黒川学芸員に厚く感謝したい。黒川さんとは面識もなく挨拶もしなかったが、先日あるギャラリストが、若い頃は本当にすてきな青年だったのよ、それが最近はストレス太りしちゃってと言っていたので、部屋を横切った小太りの中年男性が黒川さんだとすぐに分かった。


 以前紹介した吉田哲也に関するエントリー
吉田哲也遺作展(2009年4月29日)
追悼吉田哲也−この寡黙な彫刻家へのオマージュ(2007年3月21日)


「かおすもす'09 作家はつぶやく」
2010年2月7日(日)〜3月22日(月・祝)
10:00〜18:00(入館は17:30まで)
月曜日休館、ただし3月22日は開館
観覧料:一般600円、大学・高校生400円、中学生以下無料
佐倉市立美術館
千葉県佐倉市新町210
電話043-485-7851
http://www.city.sakura.lg.jp/museum/