高所恐怖症ではできない撮影

 阿佐ヶ谷のギャラリー香染美術で飯村昭彦写真展を見た。「芸術状物質の謎」と題して、コンクリートの壁面にできた汚れや建物の破損などを芸術状物質と名付けて撮影している。同名の写真集の出版記念展だ。
 案内のハガキによると、飯村はあのトマソンの煙突写真を撮った写真家だった。トマソンの煙突写真とは、赤瀬川原平らの路上観察学会が街の無意味な物体を「トマソン」と名付けて撮影し、その写真集を作った折り、飯村昭彦が六本木の廃業した銭湯の煙突の上に登って、自分の頭上から地上を撮っていた衝撃的な写真のことだ。
 飯村にその時のことを聞いた。カメラに棒を付け、煙突の上に立ち上がって棒を伸ばして撮影した。レンズは16mmの超広角レンズ。高いところが怖くないの? と聞くと、始めは怖いけど慣れるんですとのことだった。それでNHKの「ためしてガッテン」を思い出した。
 高所恐怖の人たちを集めてきて、それを克服させる番組だった。やはり初めは怖がるけど、その怖い状態を10分間我慢すると平気になるというものだった。飯村の説明と同じだ。
 しかし、それにしても銭湯の煙突に登り、煙突の上で何も支えるものなしに立ち上がり、頭上に捧げたカメラで自分と地上に拡がる風景を撮影したなんて考えただけで腰のあたりがむずむずしてきてしまう。

芸術状物質の謎―あの男が煙突から降りてきた

芸術状物質の謎―あの男が煙突から降りてきた