骨董商は信用できないか

 中島誠之助の「ニセモノ師たち」(講談社)を読んだ。骨董の世界のニセモノの数々の例と、それを作るニセモノ師、ニセモノを流通させる骨董商の世界を描いている。著者は「開運! なんでも鑑定団」の陶磁器の骨董品に関する名物鑑定士だ。「いい仕事をしてますね」が決め台詞。これはノンフィクションの世界。
 とにかく骨董にニセモノがつきものだということを教えられる。骨董商の実態も明かされる。日本でも指折りの仏像コレクターで江見高利さんという人がいる。その江見さんが、

 中島さん、京都に絹貴さんという仏教美術専門の骨董商がいるから、そこへ行って何か分けてもらってきてくれないかというんです。
 その人は「絹貴本尊堂」という老舗のご主人。奈良七大寺にゆかりのある家柄で、祖父の代から三代もつづいて日本の仏教美術を指導してきた骨董商です。奈良や京都の博物館に仏像をおさめるなど、輝かしい業績を残してきた一族で、絹貴さんの前ではみんな道を開けて、目礼をするぐらいに尊敬を集めていた人でした。

 江見さんは相当な金銭を支払っては、絹貴さんから仏像を買っていた。しかしそれにもかかわらず、江見さんは絹貴さんから贋作を掴まされてしまう。その報復に中島が利用されそうになった。
 中島は江見に頼まれ、匿名のお客の注文だと絹貴から最初500万円ほどで中国の仏像を買う。二度目も500万円の仏像を買う。

 3回目に私が絹貴さんから買った(1,500万円の)仏像は、ニセモノだったんです。これはよくある手口で、10点売ったならば、その中に悪いものを2点入れて儲けを出すという方便を地でいったわけです。だから私が3度目に絹貴さんのところに行ったときに、先方は中島の客は甘いと読んで、ニセモノをはめこんだわけです。

 江見はこのニセモノが売られるのを待っていた。これを証拠として、絹貴を徹底的に叩こうとした。その手伝いに中島が利用されたのだ。しかし中島は骨を折って二人を和解させる。
 この著名な骨董商でさえもニセモノを売っている。それどころか、実は中島自身も、掴まされたニセモノを仲間の骨董商に売り逃げていることを告白している。骨董商同士であったら、ニセモノと見抜けなかった買い手の責任だというのがこの世界の常識らしい。
 私が信頼し尊敬するある大物画商が、ぼくが信用する骨董屋さんは2人しかいない。あとの骨董屋さんは本当のことを言わないから、と言っていたのを思い出した。
 ※文中、中島の紹介した骨董商やコレクターの固有名詞は仮名とのこと。

ニセモノ師たち (講談社文庫)

ニセモノ師たち (講談社文庫)