立花隆・佐藤優「ぼくらの脳の鍛え方」(文春新書)に「立花隆選・セックスの神秘を探る10冊」という章がある。そこに本橋信宏「何が彼女をそうさせたか」(バジリコ)が推薦されている。
本橋信宏「何が彼女をそうさせたか」(バジリコ)は、ある三業地で、人妻ホテトル嬢を次々に20人も呼んでは話を聞いた体験記。人妻ホテトル嬢とはいっても、年齢は25歳から74歳まで。彼女たちのさまざまな人生(性生活)と、客たちの性生活の諸相が面白い。客にはサド、マゾもいるが、マザコン、ババコンもいる。74歳のホテトル嬢についた客は、青春期の体験からお婆ちゃんにしか感じなくなった人で、「いく瞬間、『お婆ちゃん』て叫ぶ」のだそうだ。
次の30歳の人妻あかりのエピソードが一番印象に残った。
風俗情報誌を広げた。
ここは山手線の駅の近くにあるファミレス。コーヒーをすすりながら、ホテトルのページをめくり品定めをする。
彼女たちは皆一様に右手で目の部分を覆い隠し、にっこりと微笑んでいる。少しでもいい女に見せようと、赤白青といったシースルーの下着を着て、婉然(えんぜん)と横たわっている。
ページをめくる指がふと止まった。
見事というほかないスタイルである。30歳の人妻。顔を隠しているので、美形なのかどうかはわからないが、シースルーの下着からあふれんばかりの肉体美はまちがいなく最上級である。
決めた。
さっそく携帯電話から、写真掲載ページにある店の電話番号にスケベコール。
「あかりさんですね。はい。大丈夫です。いまからでも入れます」
ホテルにやってきたあかりさんは以前別の名前を名乗っていて、本橋が会ったことのある女性だった。
……私はそれを知らずに指名したのだった。
写真でボディラインのすばらしさに見惚れて、私と接したことがあることに気づかずまた指名したのも、彼女の完璧な肉体美のせいであろう。
(中略)
下着になったあかりが風呂場に向かう。
まるでミロのヴィーナスのような肉体である。高貴な肉体の上には、庶民的な顔が乗っかっている。そのアンバランスさがまたいい。家政婦役が似合いそうな女だ。廊下を磨いている家政婦だが、ふとかがむと胸の谷間がブラウスからのぞきみえてしまう。そんなシーンがあったら、まさにうってつけだろう。
店を辞めるから愛人になってと言われる。しかし店を辞めた翌日、メールを打つが返信がない。翌日もその翌日もメールを打つが結果は同じだった。そして翌日メールを打つと、もうメールが届かなかった。メールアドレスが変えられてしまったらしい。なぜだろう。
いくとおりも推理してみたが、結論は出ない。そしてあの見惚れるような肉体美が私の前にあらわれることも二度となかった。
目の前で、人魚がパシャッと飛び跳ねて、水面に潜ってしまったような思いにとらわれた。
水面は、何事もなかったかのようにおだやかな表情を浮かべている。
家政婦のような庶民的な顔とミロのヴィーナスのような完璧な肉体美。それに本橋が強く惹かれている。顔が平凡でも肉体がすばらしいのは、そんなに魅力的なのだろうか。今まで経験をしたことのない感覚だ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ興味を持ったのだった。
何が彼女をそうさせたか-東京のある街角、ホテルに向かう人妻たちの素顔
- 作者: 本橋信宏
- 出版社/メーカー: バジリコ
- 発売日: 2005/12/10
- メディア: 単行本
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- 作者: 立花隆・佐藤優
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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