私の好きな言語学者千野栄一の「ことばの樹海」(青土社)に「一番難しい言語」と題された章がある。そこにアメリカの外交官を対象とした語学の特訓施設に「外国語研修所」というアメリカ国務省付属機関があると紹介されている。そこではアメリカ人が学ぶ場合の外国語の難易度が、平均研修時間で4つのグループに分類されている。それを易しい方からグループ1〜グループ4で表すと次のようになる。
*グループ1(最もやさしい語)
アフリカーンス語(南ア連邦)、クレオール語、デンマーク語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、ハイチ語、イタリア語、ノールウェー語、ポルトガル語、ルーマニア語、スペイン語、スワヒリ語(ケニア・タンザニア・ウガンダなど)、スウェーデン語
*グループ2
ブルガリア語、ダリ語(アフガニスタン)、ファルスィ語(イラン)、ギリシャ語、ヒンディ語、インドネシア語、マレー語、ウルドゥ語
*グループ3
アムハラ語(エティオピア)、ベンガル語、ビルマ語、チェコ語、フィンランド語、ヘブライ語、ハンガリー語、クメール語(カンボジア)、ラオス語、ネパール語、ピリピーノ語、ポーランド語、ロシア語、セルビア・クロアチア語(ユーゴスラビア)、シンハラ語(スリランカ)、タイ語、タミール語、トルコ語、ベトナム語
*グループ4(最も難しい語)
アラビア語、中国語、日本語、朝鮮語
ただしこれはアメリカ人にとっての難易度だから、日本人に対しては多少修正する必要があると千野は書く。
まず全体としていえることは、英語が同系である数々の現代ヨーロッパの言語を持つのと比べて、日本語にはそのような言語はない。その結果グループ1の言語はぐっと数が少なくなる。文法の変化があまりなく、発音も比較的容易でラテン文字で書かれている言語がここに入るであろう。
グループ2にはこの表のグループ1の大部分が入り、中でもオランダ語やスワヒリ語や、デンマーク語はグループ3に入る可能性さえある。またこの表のグループ2の一部はグループ1に行く。
この表のグループ3のうち、ポーランド語、チェコ語、それにもしかしてロシア語とセルビア・クロアチア語はグループ4に行く可能性があり、逆にトルコ語、フィンランド語、それにハンガリー語は多分下がる。
この表のグループ4のうち韓国語は文法が類似しているので、グループ2へ、中国語は文法が類似しているので、グループ2へ、中国語も文字の難しさが軽減されるので下がるが、中国語は語形変化がなさすぎて別の困難があるので判定を下すのはそう容易ではない。新しいグループ4にはアラビア語と下から上ってきたいくつかの言語が入るだろう。
この「ことばの樹海」はとても面白いエッセイ集だ。文庫本になって多くの人に読まれることを望む。
- 作者: 千野栄一
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1999/04
- メディア: 単行本
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