鈴木敏夫が選ぶ加藤周一の3冊

 毎日新聞の書評欄に「この人・この3冊」というコラムがある。2月21日はジブリ鈴木敏夫加藤周一のベスト3冊を選んでいる。
1.日本文学史序説 上・下(ちくま学芸文庫
2.日本その心とかたち(徳間書店
3.日本文化における時間と空間(岩波書店

 あるとき、加藤周一さんから直接教えられたことがある。
 江戸屋敷には設計図が無い。西洋の人が江戸屋敷を見学すると、その建築構造の複雑さに、これをどうやって設計したのか、大概の人が驚嘆するそうだ。回答は、日本の建物は部分から始める。まず第一に、床柱をどうするのか。つぎに床柱に見合う床板を探す。そして、天井板。その部屋が完成してはじめて、隣の部屋のことを考える。その後、”建て増し”を繰り返し全体が出来上がる。これとは真逆に、西洋ではまず全体を考える。教会がいい例だ。ほぼ例外なく、天空から見ると十字架になっている。で、真正面から見ると左右対称。その後、部分に及び祭壇や懺悔室の場所や装飾などを考える。
 目から鱗が落ちた。長年連れ添った宮崎駿について本能で思っていたことが理解できた。彼の映画「ハウルの動く城」を思い出して欲しい。「鈴木さん、これ、お城に見える?」。そういわれた日のことを印象深く憶えている。宮崎駿は、まず、大砲を描き始めた。これが、生き物の大きな目に見えた。つぎに、西洋風の小屋とかバルコニーを、さらに大きな口めいたモノを、あげくは舌まで付け加えた。そして、最後に悩んだ。足をどうするのか。足軽の足か、ニワトリか。ぼくは「ニワトリがいい」と答えた。
 これが、宮崎駿が西洋で喝采を浴びる原因だ。西洋人には何が何だか訳が分からない。理解不能のデザインなのだ。だから、現地での反応も、豊かなイマジネーションだ、まるでピカソの再来だ、になる。

 これを読んで、絵は中心から始まり、写真は周辺から始まる、という言葉を思い出した。あれ、ちょっと違うか。
 もう一つ連想したのが、神田日勝の馬の絵だ。

 頭から胴体までが描かれている。下半身が描かれていないのは、ここまで描いて画家が亡くなったからだ。江戸屋敷の建て方と同じだ。思想は違うが、温泉旅館の建て方も江戸屋敷に似ている。
 最初に戻るが、加藤周一の代表作は誰が選んでも「日本文学史序説」なのだ。本当に優れた仕事だ。