新山茂樹という国文学者

 朝日新聞2010年1月1日に大江健三郎のインタビュー記事が紹介されていた。題して「本から本へ つながり無限」

 高等学校で出会った伊丹十三さん(俳優でゆかり夫人の兄)が面白いと教えてくれた渡辺一夫の「狂気について」を読んで、「この人の本を全部読もう」と、松山の古本屋であるだけの本を買って読破した。
 大学に入り、大江さんは渡辺氏のもとで仏文学を学ぶ。氏の死後、夫人の依頼で整理した手紙の中に、カナダの外交官で歴史家のハーバート・ノーマンから来たものがあった。「あなた(渡辺)の紹介で会った医学生加藤(周一)は深い教養をもつめざましい人だ」とある。
 これを機に、ノーマンの著書「忘れられた思想家 安藤昌益のこと」を読む。ノーマンと親しく、その死を悼んで新聞に寄稿した丸山真男も、徳川時代の政治思想史を中心に読んだ。
 後に大江さんは、アメリカの歴史学者テツオ・ナジタと知り合う。シカゴ大学に招かれ講演をすることになり、ナジタの近著に目を通していたら、安藤昌益についての記述が出てきた。
「渡辺先生、ノーマン、テツオ・ナジタがつながってくる。脈絡というのはそういうことです」

 テツオ・ナジタとくれば、新山茂樹を外すわけにはゆかない。長く鶴見大学で国文学を教え、アメリカでテツオ・ナジタや村上春樹の英訳者ジェイ・ルービンに日本語を教えた人だ。私の別れたカミさんの恩師で、常々その学識の高さを吹き込まれていた。下記のエントリーに書いたとおり、今私は新山茂樹さんの学識を疑ってはいない。

「折口信夫への中沢新一と三島由紀夫の相反する二つの評価」(2008年9月28日)
「テツオ・ナジタに関して大江健三郎が書いている」(2009年2月17日)

明治維新の遺産―近代日本の政治抗争と知的緊張 (1979年) (中公新書)

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